【TeaTime97号】特集_胃・食道外科でロボット手術を開始   クオリティ高い緻密な手術を行うために 胃・食道外科 永岡 栄

胃・食道外科でロボット手術を開始
クオリティ高い緻密な手術を行うために

2026年8月掲載:Tea Time 97号(2026年・夏号)

当センターでは泌尿器科や婦人科などでロボット支援下手術(ロボット手術)を導入してきましたが、この度、胃・食道外科においてもロボット手術を始めました。ロボット手術にはどのような特徴があり、実際にロボットを操作する感覚はどのようなものなのでしょうか。胃・食道外科部長の永岡栄医師に話を聞きました。

ロボット手術のイメージ

胃がん切除でロボット手術がスタート

—ロボット支援下手術(以下、ロボット手術)とはどのような手術なのか、教えてください。

永岡:ロボット手術とは、4本のアームがついたロボットを外科医が操作して手術を行う方法です。がんを切除する外科手術の方法として、今まではお腹を開く開腹手術と、お腹に小さな穴を開けてカメラや器具を入れる腹腔鏡手術がありましたが、これに加わるのがロボット手術です。ロボット手術の特徴としては、人間の手首よりも柔軟なロボット関節が使え、手ブレもせずに正確な操作ができる点が挙げられます。

—ロボット手術の実績について教えてください。

永岡:当センターでは以前から泌尿器科や婦人科、呼吸器外科、大腸肛門外科でロボット手術を行ってきました。胃がんと食道がんについては、2018年からロボット手術が保険適用となっています。当センターは地域がん診療連携拠点病院、高度急性期病院であり、患者さんに負担の少ない医療を追求してきました。胃・食道外科においても準備を進め、2025年12月から胃がんに対するロボット手術を始めました。今後、食道がんに対してもロボット手術を行いたいと考えています。

—開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術と、どのような基準で手術法を決めているのですか。

永岡:過去の手術による癒着が予想される場合や、直接手で触れて確認しながら安全に切除する必要がある場合を除き、腹腔鏡手術またはロボット手術を優先します。ただ、当センターに現在あるロボットは1台のため、他の診療科や患者さんとスケジュールを調整しながら手術法を決めていきます。基本的には、腹腔鏡手術が可能ながんに対しては今後ロボット手術に移行する方針を立てています。

ロボット手術のチーム
アーム先端のカメラが捉えた術野をチームで共有

腹腔鏡手術との違いや合併症リスク

—腹腔鏡手術とロボット手術とでは、お腹に開ける穴の数や大きさに違いはありますか。

永岡:開ける穴の数や大きさはほとんど同じです。胃がんにおいては、腹腔鏡手術よりもロボット手術のほうが、下腹部寄りの場所に穴を開けます。下腹部のほうが痛みを感じにくいとされていますが、痛みの程度は腹腔鏡手術とロボット手術とでほとんど変わらないと思います。また、手術中の出血量や、退院までの日数も、腹腔鏡手術とロボット手術とで大きく変わりません。費用についても、ロボット手術は保険が適用されて高額療養費制度も利用できるため、経済的な負担は腹腔鏡手術とほとんど変わりません。

—手術時間に違いはありますか。

永岡:ロボットアームを装着・脱着する時間が余分にかかります。例えば、胃がんの標準的な手術である幽門側胃切除術の場合、腹腔鏡手術なら3〜4時間ですが、ロボット手術は始めたばかりで慎重に行っているため現時点では5〜6時間かかっています。ただ、慣れれば腹腔鏡手術と同じくらいの時間になると思います。

—手術の合併症という点においてはいかがでしょうか。

永岡:胃がんの手術で特に懸念されるのが「膵液ろう」です。胃がんの手術では、膵臓の上にあるリンパ節を切除する際、膵臓を手や器具で押さえる必要があります。このとき、膵臓に力がかかりすぎると膵臓にダメージを与えてしまい、膵液が漏れ出すことがあります。これが膵液ろうです。膵液には消化酵素が含まれており、周囲の臓器や血管を溶かしてしまいます。術後の退院を長引かせる、厄介な合併症です。ロボット手術の場合、関節機能を使うことで膵臓を押さえることなく、膵臓を乗り越えるようにしてリンパ節に到達できます。そのため、ロボット手術なら膵液ろうのリスクを減少できると考えています。

当センターでは食道がんに対するロボット手術の実績はまだありませんが、食道がんの合併症で最も避けたいのは「反回神経麻痺」です。食道がんは、声帯の動きを調節する反回神経の周囲のリンパ節に転移しやすいため、そこを切除します。反回神経は、少し触るだけでも麻痺が起きてしまいます。ロボット手術であれば、手ぶれがなくなるため、反回神経を刺激することなく、周囲のリンパ節を安全に切除しやすくなります。反回神経麻痺の発生率が下がったという論文があります。

腹腔鏡手術とロボット手術のリンパ節到達の違い

患者さんのお腹の中に手が入っていく没入感

—医師から見た、ロボット手術の特徴を教えてください。

永岡:腹腔鏡手術では特に助手との協力が欠かせません。一方、ロボット手術はサージカルコンソールという操縦席に座り、双眼鏡を覗き込むようなかたちで3D映像に集中するため、手術を一人で行っているかのような感覚があります。カメラを自分の意思で自由に動かせ、臓器を安定して固定できます。

もう一つ、画面の見え方がまったく違います。腹腔鏡手術は、通常2Dの平面的な映像をモニターで見るのですが、ロボット手術では完全に3Dの立体的な映像で、見えている世界が腹腔鏡手術とはまったく違っていて、まるでお腹の中に自分の手が入っているような感覚になります。ロボット手術は触覚がないのですが、不思議と自分の手が患者さんのお腹の中で動いているような没入感があります。

これは、逆に注意しなければいけないとも思いました。ロボットアームが臓器などを引っ張る力は意外と強く、触覚がないため、力加減を慎重に調整する必要があります。そういう点においても、今までとはまったく違う種類の手術だと感じました。そのクオリティの高い緻密な手術が可能になると確信しています。

ちなみに、医師がロボット手術中に顔を上げるとすべてのロボットアームが自動停止するしくみになっており、安全対策もしっかりしています。

da Vinci Xi を操作する様子
3Dカメラで術野を立体的に観察しながらアームを操作
ロボットアームのコントローラー
ロボットアームを動かすコントローラー

何よりも優先すべきは患者さんの安全

—先生が部長を務めている胃・食道外科の強みを教えてください。

永岡:強みはチーム医療です。ロボット手術は医師だけで完結するものではありません。手術室の看護師、麻酔科医、臨床工学技士などの皆さんの協力が不可欠です。患者さんごとに丁寧なシミュレーションを行い、妥協のない手術に臨んでいます。私自身も、手術の数日前にはロボットメーカーが提供しているトレーニングセンターにスタッフと共に赴き、シミュレーターや実機に触れてウォーミングアップを行うなど、入念な準備をしています。将来的には、当センターでも積極的にトレーニングできる環境を作りたいと考えています。

—先生は外科系副院長と患者支援室長も務めていると聞きました。患者さんの安全を守るための体制づくりについても教えてください。

永岡:何よりも「患者さんの安全」を第一としております。2026年4月からロボット支援下手術推進委員会を立ち上げましたが、新しい技術をただ急いで導入するのではなく、病院全体で職種や診療科の垣根を越え、慎重かつ万全の体制で患者さんを守ることを心がけています。


永岡 栄
副院長/胃・食道外科部長/内視鏡診断治療科部長
永岡 栄 Sakae Nagaoka

患者さんや家族へのメッセージ
がん治療において最も重要なのは「早期発見」です。少しでも気になる症状があれば放置せず、検査を受けていただきたいと思います。定期的な検診もぜひ受けてください。早期に発見できれば、外科手術だけでなく、より負担の少ない内視鏡治療も可能です。当科ではロボット手術を含め、地域基幹病院として質の高い治療を当たり前に受けられる体制を整えています。何でもお気軽にご相談ください。

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