肺がんの治療法
肺がんの病期(ステージ)は、がんの大きさや浸潤の程度、リンパ節転移の程度、遠隔転移の有無によって、Ⅰ期からⅣ期に分けられています。そのうち手術治療の対象となるのは、Ⅰ期、Ⅱ期、そしてⅢA期の一部です。ⅢA期の大部分とⅢB期は抗がん剤治療と放射線治療の組み合わせ、Ⅳ期は抗がん剤による治療が中心となります。肺がんはどの病期においても「手術あり」の方が、生存率が高い傾向にあります。
肺がんの5年生存率は、Ⅰ期が約80%、Ⅱ期で約50%、Ⅲ期が約20%、Ⅳ期では約5%とされており、病期が進むほど、生存率が低くなっています。そのため、肺がんの治療には早期発見、早期手術が非常に大切なのです。
①胸腔鏡下手術
側胸部を4箇所、2cmほど切開し、ポート(筒)を差し込んで、胸腔内にアプローチします。1つは胸腔鏡用、2つは術者の右手・左手用、残りの一つは助手用です。手術操作には太さが5mmで30cmほどの細長い鉗子を右手に1本、左手に1本持って行います。肺や肺の血管・気管支を切るときには、太さ1cmほどの内視鏡手術用の自動縫合器を用います。従来の開胸手術のように、糸で結紮したり、針付糸で縫合したりすることもできます。胸腔内で切除した肺は、丈夫なプラスチックの袋に収めた上で、2cmの皮膚切開を4cmほどに拡大した部分から外へ取り出します。
開胸手術で行っていたリンパ節郭清(切除)も同じように胸腔鏡下で行うことができます。皮膚の切開が小さく、胸腔内には手が入らないため触診はほぼできませんが、肉眼より拡大して見ることができるので、細かな操作が可能です。このように、胸腔鏡下手術は傷は小さく、胸筋や背筋を切らず、肋骨も開かないため、痛みも軽く呼吸器へのダメージも小さいため、体に優しい手術と言えます。近年ではほとんどの手術は胸腔鏡下手術となっています。
②化学療法
現在、肺がんでは目的により、様々な薬を単独または組み合わせて使います。細胞障害性抗がん剤、分子標的薬そして免疫チェックポイント阻害薬が挙げられます。がんが起こる原因は、からだの細胞の設計図である遺伝子の異常です。この遺伝子の異常を調べることは、薬物治療の非常に重要なポイントとなります。
特に日本人の非小細胞がんの患者さんには約75%の頻度で何らかの遺伝子異常がみつかり、その遺伝子変化に合わせた分子標的薬が効く可能性が高いといわれています。
【薬剤】
■1)細胞障害性抗がん剤
細胞が増殖する過程に影響を及ぼしがん細胞を攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けます。肺がんの治療では、内服薬としてティーエスワン®とユーエフティーが注射としてシスプラチン、カルボプラチン、パクリタキセル、アブラキサン®、イリノテカン、エトポシド、ペメトレキセド、ビノレルビンが使われます。
■2)分子標的薬
がん細胞に影響を与えるたんぱく質やがん関連遺伝子をターゲットとして効率よく攻撃する薬です。肺がんでは、実に多くのがん関連遺伝子が見つかっており、それらに奏効する薬剤も多く保険承認されています。特に非小細胞肺がんでは、EGFR遺伝子変異が約50%に認められ、その適応する薬剤として、オシメルチニブやゲフィチニブ、エルロチニブなどがあります。
参考:「がんゲノム通信2号」
■3)免疫チェックポイント阻害薬
がん細胞によるリンパ球などのブレーキを解除することにより、体内にもともとある免疫細胞の活性化させる薬です。肺がんでは、分子標的薬の対象となる遺伝子変化がみつからない患者さん(30~40%)に、免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を行います。
【種類】
■1)進行・再発胃がんに対する薬物療法(目的:命を延ばすこと)
進行または再発し、手術によりがんを取りきることが難しい場合に行われ、目的は延命です。
薬物療法により、がんによる症状を和らげたりすることもあります。患者さんのがんの状況、化学療法に伴う想定される副作用、点滴の必要性、入院の必要性や通院頻度などについて患者さんで話し合って、どのような薬を使うかを決めていきます(シェアード・デシジョン・メイキング(SDM:Shared decision making))。
肺がんで使用できる薬剤は多岐にわたっており、一番奏功する確率の高い一次化学療法から始め、効果が低下した場合や副作用が強く継続が難しい場合には二次、三次と治療を続けていきます。
■2)手術後の補助化学療法(目的:治癒)
たとえ手術でがんを切除できたとしても、目に見えないごく小さなながんが残っていて、再発することがあります。こうした小さながんを根治する目的で行われる化学療法を術後補助化学療法です。肺がんの場合、ユーエフティーやシスプラチンとビノレルビンの併用治療が行われます。
③放射線治療
放射線治療はがん治療の3本柱の一つで、手術と同様に局所治療ですが、根治的な治療から対症療法までカバーする、いわばオールマイティーで有効な治療法です。放射線治療の最大の魅力は全身の副作用を低く抑えることが可能で、体を切らなくてもがんの治癒や症状の緩和が期待できるところです。当センターには最新の治療機器が導入されておりますので、進行病期や病状に応じて最適な放射線治療の施行が可能です。
実際の治療では医師の指示通りの日数(回数)を受けていただくことが重要です。治療期間が予定よりも大幅に延長したり、途中で治療を中止したりすると治癒が見込まれる症例でも根治的な治療の対象から外れることがあります。
放射線照射自体は痛みや熱さなどといった直接的な感覚として感じられることはありませんが、治療が進むと照射線量や照射部位に応じて副作用が出現します。副作用は①治療中あるいは治療直後に起こるもの、②放射線治療開始から3カ月くらい経過してから出現するものに分けられますが、これらは基本的に放射線が照射された範囲に出現します。詳細については治療担当医から説明をお受けください。肺がんに対する放射線治療では①としては皮膚炎、食道炎など、②として肺臓炎などが挙げられます。放射線治療による肺臓炎はまれに重症化することがありますが、これについては健常肺に照射された線量と肺の体積の比率が関係しているといわれています。当科では放射線治療をお受けになる全ての肺がん症例においてこの数値を算出し、重篤な肺臓炎出現の低減に努めています。
【根治的な治療】
■1)早期肺がん
当センターでは手術ができない、あるいは手術を希望しない臨床病期I期の肺がん症例に対してサイバーナイフによる定位放射線治療(いわゆるピンポイントの治療)を行います。呼吸に合わせて照射を行うため(追尾照射)、治療を行う1~2週間前に腫瘍近傍の肺の中に金属のマーカーを埋め込む必要があります。治療時間は1回につき1時間前後かかり、治療回数は連日で4回~10回です。
■2)進行肺がん(おもに手術ができないIII期)
原発巣とリンパ節転移を含めた範囲に放射線治療を行います、実際に放射線が照射されている時間は1~2分前後で、体と治療装置のセットアップを含めても1回の治療にかかる時間は10分前後です。治療回数は平日毎日(連日)で30回/6週間前後行い、可能であれば抗がん剤を併用します。ラディザクトを用いて強度変調放射線治療(IMRT)を行うこともあります。
【対症的な治療(おもなもの)】
■1)骨転移
骨転移に対する放射線治療は有効です。病状や転移部位に応じて1~10回程度の治療を行っています。脊椎転移などに対してはサイバーナイフで治療を行うこともあります。
■2)脳転移
原疾患の状態や病変の個数・存在部位によって治療内容は異なりますが、少数個であればサイバーナイフによる定位放射線治療を行います。サイバーナイフで行う場合、治療に要する時間は1回20分前後で、1病変について1~3回前後照射します。また、全脳照射については通常の放射線治療器を用いて行い、10回/2週間の治療を基本としています。
(線量分布図写真:I期肺がんに対するサイバーナイフによる定位放射線治療)