当科のご紹介
心臓血管外科専門医認定修練施設として、4名の心臓血管外科専門医により、心臓疾患、大動脈疾患、末梢動脈疾患の外科手術を行っています。小児領域、成人領域の2名ずつの専門チームに分かれ、新生児から超高齢者まで幅広い年齢層に対応していることが、当科の特徴です。小児科、新生児科、あるいは循環器内科、放射線血管内治療科と緊密な連携を取りながら、患者さんごとに適切で安全な治療をお届けしています。周術期にはICUに入室していただき、集中治療科と共同で、きめ細かな管理を行うよう心がけています。
特色
小児領域
子どもの心臓病である先天性心疾患の手術を行なっています。
先天性心疾患は難解かつ複雑でガイドライン(学会が推奨する治療指針)がありません。同じ病名でも「ひとつとして同じ心臓はない」と言われるくらいにお子さんによって心臓の形は様々です。手術も心臓の形に合わせて工夫することがお子さんにとって最善の結果につながります。当科では30年以上にわたって先天性心疾患の手術を行なってきた経験をもとに、それぞれのお子さんに最適な手術を行なっています。お子さんの心臓手術は親御さんにとっても不安です。「どうしてこの手術をするのか」「どんな手術なのか」「手術のあとはどんなことに気をつける必要があるのか」をわかりやすくお話ししてできる限りの不安をとりのぞき、お子さんも親御さんも納得して手術にのぞめるように努めています。
先天性心疾患の治療では手術だけでなく手術前後の治療も大きな役割があります。手術のタイミングや手術前後の治療をお子さんの心臓の形や状態に合わせて進めることで、合併症を減らし手術後の回復を早めることができます。手術のかわりにカテーテル治療を行うことで体に傷をつけて行う手術の回数を減らすことができることもあります。お子さんが少し大きくなると学校や行事に支障が出ないようにする配慮も必要です。新生児科や小児科と綿密に連携して議論しながら、お子さんと親御さんの負担が最も少なくなるような治療計画を決めています。(Tea Time 76号)
成人領域
安全第一をモットーに、心臓および胸部大血管、あるいは末梢血管の外科治療を行っています。弁膜症では、大動脈弁、僧帽弁に対する弁置換術はもちろんのこと、僧帽弁閉鎖不全症では積極的に弁形成術を行っています。心房細動にはメイズ手術や左心耳切除術を付加して、遠隔期の脳梗塞発症ゼロを目指しています。狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患に対する冠状動脈バイパス術では、心拍動下手術と人工心肺下手術をそれぞれの患者さんごとに適宜使い分け、最適な方法を選択するようにしています。バイパス手術のみにこだわることなく、循環器内科チームによる経皮的冠状動脈形成術(ステント治療)と組み合わせた、いわゆるハイブリッド治療により、それぞれの治療法の長所を生かした戦略で臨むこともあります。大動脈瘤治療では、従来からの開胸あるいは開腹による人工血管置換術だけでなく、放射線血管内治療科と共同でステントグラフト内挿術もさかんに行っています。バイパス手術とステントグラフト治療を組み合わせた、いわゆるデブランチング手術も増加しています(Tea Time 91号)。末梢動脈疾患いわゆる閉塞性動脈硬化症に対するバイパス手術も多く手掛けています(第13回市民公開講座)。高度の技術が求められる膝下3分枝へのバイパス術も増加しています。壊死や感染をともなうような重症虚血肢の患者さんも多く、皮膚科と共同で治療に当たっています。
併存疾患のある患者さんが多いのですが、透析の患者さんでは腎臓内科と、糖尿病の患者さんでは糖尿病内分泌科と、併診により管理に遺漏ないよう努め周術期の安全性を高めています。待機手術では、なるべく術前に自己血を貯血して、同種血輸血を回避するよう努力しています(Tea Time 91号)。退院後の生活まで見据え、リハビリテーション科の介入により心臓リハビリテーションに励んでいただいています。
扱う疾患
小児領域
先天性心疾患はその種類や組み合わせ、重症度がとても多彩ですが、当院では補助人工心臓や心臓移植を除く全ての先天性心疾患の手術を行っています。大人になってから手術が必要になる成人先天性心疾患の手術も成人領域チームと協力して取り組んでいます。なかでも以下に挙げる手術は当院の特徴です。
低出生体重児の心臓手術
2500g以下の体が小さい赤ちゃんが先天性心疾患をもっている場合には、産まれてから早いうちに手術を見据えた特殊な管理が必要になり、さらに体が小さいと組織も未熟で手術は難しくなります。当院では体が小さい赤ちゃんが多く産まれる背景もあって、2500g以下の赤ちゃんの心臓手術を多く経験しています。1000g台の赤ちゃんでも早くから適切な管理ができれば安全に手術することができるので、まずは私たちか新生児科にご相談ください。
動脈管開存症の皮膚小切開手術
動脈管と呼ばれる血管は生まれて間もなく自然に閉じますが、体が小さく生まれた赤ちゃんでなかなか閉じない場合には手術が必要になります。当院ではできる限り少なくかつ小さい傷で手術をするために工夫を続けており、現在は2cm以下の1つの傷で手術をしています。400g前後のとても小さい赤ちゃんでも小さい傷で手術ができるので、まずは私たちか新生児科にご相談ください。
18, 13トリソミーの心臓手術
以前は18, 13トリソミーの心臓手術は危険とされていたため、世界的に心臓手術は避けられてきました。当院では15年前から18, 13トリソミーの心臓手術を始め改良を重ねています。現在では心室中隔欠損症やファロー四徴症は産まれて早々に当院で治療を始めることができれば、難しい管理が必要にはなるものの安定して根治手術を終えて退院できるようになりました。治療開始が遅れたり、単心室と呼ばれる心臓の場合には難しいこともあります。18, 13トリソミーの先天性心疾患で治療が難しいと言われた場合でも、まずは私たちか小児科にご相談ください。
成人領域
冠状動脈疾患
心臓は全身に向けて血液を送り出すポンプですが、心臓自体も血液の供給がなければ動き続けることはできません。その血液を運ぶ血管、つまり心臓の筋肉を栄養する血管が冠状動脈です。左冠状動脈(左前下行枝と左回旋枝)、右冠状動脈の3システムで構成されていて心臓を取り囲むように走行しています。虚血性心疾患は、冠状動脈が動脈硬化によって狭窄ないし閉塞をきたした状態です。病変よりも下流は血流不足になり、つまり栄養不足になり、胸痛をはじめとした胸部症状をきたします。虚血性心疾患に対する治療は大きく分けて2種類あります。一つは経皮的冠状動脈形成術といって、いわゆるステント治療、バルーン治療です。循環器内科ドクターが行います。もう一つが冠状動脈バイパス術です。心臓血管外科が担当します。左右内胸動脈、胃大網動脈、大伏在静脈など、自分の身体のなかで使ってもよい血管を導管にして、病変よりも末梢にバイパスをします。人工心肺を用いて心臓の動きをいったん止めて行ったり(心停止下)、あるいは心拍動のまま行ったり(心拍動下)、状況に応じて補助手段を選択します。
この病気の原因は動脈硬化です。高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、肥満、喫煙、などの危険因子を改善させることが重要です。
心臓弁膜症
以前よくみられたリウマチ熱罹患後遠隔期の僧帽弁狭窄症はほとんど見かけなくなりました。変性疾患としての僧帽弁閉鎖不全症や、動脈硬化を基盤として高齢者に多い大動脈弁狭窄症がよく見られます。
心臓は筋肉でできたポンプですが、各部屋の境に一方通行弁があり逆流を防止しています。左心房と左心室の境にあるのが僧帽弁です。僧帽弁閉鎖不全症とは、この弁が完全には閉鎖しきらず、左心房に向かって逆流を生じている状態です。腱索と呼ばれる弁を支える組織が断裂していることが原因であることが多いです。全身に送り出したつもりの血液が左心房に戻るため無駄な仕事をし続けることになります。心臓に負担がかかった状態です。僧帽弁形成術や置換術で治療します。
心臓の出口にあるのが大動脈弁です。大動脈弁狭窄症では、この弁に動脈硬化による石灰化などの病変が起こり硬くなり、開放制限をきたしてしまいます。ご高齢の患者さんに多くみられます。狭くなった大動脈弁を通して全身に血液を送り出すために、左心室はぎゅうぎゅうと毎心拍ウェイトトレーニングをしているのと同じです。このため、心臓に負担がかかった状態であり、心不全を引き起こす可能性、ひいては生命の危険にさらされていると言えます。実はこの病気は比較的若年の方にもときどき起こります。大動脈二尖弁の患者さんです。大動脈弁が本来3枚から構成されるべきところ、生まれつき2枚である二尖弁と呼ばれる状態にあります。二尖弁の患者さんは、動脈硬化による石灰化などの病変が進行しやすいと言われています。大動脈弁置換術を行います。
以上のほか、感染によって弁が破壊されたり、全身の塞栓症を起こしたりする感染性心内膜炎と呼ばれる病気や、人工弁置換術後の再手術1)など、心臓弁が一方通行弁としての役割を果たせなくなり、心臓に負担がかかっている状態では、治療の必要性について検討が必要です。
さて、人工弁は2種類に分類されます。機械弁と生体弁です。
機械弁:パイロライトカーボンでできた、2葉弁(2枚のはねで構成される)で、耐久性は十分にあります。しかし、ワーファリンという、血液を凝固しにくくする薬をずっと飲み続ける必要があります。なお、術後もMRI検査は可能です。
生体弁:牛の心嚢膜(心臓をくるむ膜)を用いて作った3葉弁で、血栓を形成しにくいので、条件によりワーファリンの休薬が可能です。しかし、耐久性に難があり、10~15年経過すると人工弁が劣化してくる可能性があります1)。人工弁を植えた時の患者さんの年齢が若いほど、このような人工弁機能不全が早く起こってきます。
以上の特徴を考慮して、基本的には、ご高齢の患者さんには生体弁を、若年者には機械弁をお勧めしています。
なお、術後の心臓の機能については、いずれを選択しても特に違いはないと思います。
大動脈疾患
大動脈壁が、動脈硬化、解離、炎症、感染、外傷、結合織異常などを原因として拡張·瘤化して、胸部では最大径55~60mm、腹部では45~50mmをこえてくると、いずれも正常な太さの3倍程度になっていて、破裂したり、あるいは大動脈解離を発症したりする危険があります2,3)。ほとんど何も自覚症状がないことが多く、以前は破裂してから搬送されてくる患者さんや、あるいは10cmを越える巨大な動脈瘤にまでなってから見つかる患者さんなど珍しくなかったのですが、最近ではそういったケースは少なくなりました。健診などによって偶然、大動脈が軽度に拡張した段階で指摘されることが多く、その後定期的に検査を続けていると徐々に拡大してきて治療域にまで入ってくるわけです。治療が必要かどうかは、動脈瘤の大きさと形状に注目して判断します。大きいほど破裂しやすいと考えます。拡大するスピードが速いものも危険です。形状では、血管全体が均等に膨らんだ大動脈瘤(紡錘状)と、一部分だけ突き出したような大動脈瘤(嚢状)を比較すると、嚢状動脈瘤の方が破裂しやすいと考えます。
閉塞性動脈硬化症
閉塞性動脈硬化症とは、下肢動脈が動脈硬化によって狭窄ないし閉塞をきたした状態です。病変よりも末梢の血流が不足するために、さまざまな症状が出てきます。症状はフォンテーン分類を用いて示します。Ⅰ度は、ほぼ症状がない状態です。Ⅱ度は、間欠性跛行といって、しばらく歩くとふくらはぎが重く痛くなり、休憩すると痛みがおさまりまた歩けるようになる、という状態です。日常生活の制限がひどいようなら治療を検討する段階です。Ⅲ度は、安静時痛といって、安静にしていても足の痛みが出てくる状態です。この段階にまでなると何らかの治療が必要です。Ⅳ度では、足趾や踵に潰瘍や壊死を起こしてしまった状態です。細菌感染を起こしてしまうと敗血症にまで悪化することも多く、下肢の切断が避けられなくなる可能性があります。治療としては、ダクロンやゴアテックス線維で作製された人工血管、あるいは自分の血管である大伏在静脈などを導管にしてバイパス手術を行い、病変よりも末梢の血流を増やすようにします。
この病気の原因は動脈硬化です。高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、肥満、喫煙、などの危険因子を改善させることが重要です。
下肢静脈瘤
下肢の静脈が太く浮き出ている伏在静脈瘤と呼ばれるタイプ以外にも、網目状あるいはクモの巣状静脈瘤など、さまざまな見た目のものがあります。いずれにせよ、表在静脈(大伏在静脈、小伏在静脈)の弁の機能が失われるために起こります。弁としての働きがないため逆流が生じ、下肢に血液が貯留するために静脈が拡張します。下腿浮腫、痛い重いといった感じ、あるいは足がつりやすいという症状もよくみられます。ひどくなると色素沈着、潰瘍形成なども出てきます。血液が下肢に貯留しないように弾性ストッキングを着用する、下肢を軽度に挙上させて就寝する、といった保存的治療も有効ですが、確実な治療としては外科的治療をお勧めします。ストリッピング手術といって、大伏在静脈を抜去する、小伏在静脈は高位で結紮するなどして、逆流をなくし、さらには静脈瘤を切除する手術です。
参考
1) 田中慶太,鈴木登士彦,小林城太郎,安川峻.外巻き弁植込み後早期の人工弁機能不全に対する再手術の1例.胸部外科 2023;76:949-952.
2) 鈴木登士彦,田中慶太,小林城太郎.術中診断によりハイブリッドで治療できた梅毒性大動脈瘤の1例.胸部外科 2020;73:1023-1026.
3) 田中慶太,鈴木登士彦,小林城太郎.全身性エリテマトーデスに合併した大動脈弁輪拡張症に対するBentall手術の1例.胸部外科 202;73:131-134.
臨床研究へのご協力のお願い
当科では、手術を受けられた患者さんの診療記録や検査結果、術後の経過などを匿名化して解析し、今後の治療成績の向上や合併症の予防に役立てる研究を行っています。
この研究のために新たな検査や費用のご負担をお願いすることはありません。
研究の成果は、学会や論文等で公表されることがありますが、個人が特定されることは一切ありません。
研究への協力を望まれない場合は、対象から除外できます。その場合も診療に不利益が生じることはありませんので、ご安心ください。
ご不明な点がある場合や研究への参加を望まれない場合はご遠慮なくお伝えください。
主な実績
診療実績(2024年度)
入院
延患者数 |
新患者数 |
1日平均患者数 |
1,823 |
94 |
5.0 |
外来
延患者数 |
新患者数 |
1日平均患者数 |
1,704 |
145 |
7.0 |