【TeaTime96号】特集_「一生付き合う病気」から「自分の体のリズムを自分で整えられる病気」へ

NTM・気管支拡張症包括ケアセンターの開設

2026年6月掲載:Tea Time 96号(2026年・春号)

非結核性抗酸菌症(NTM症)という呼吸器の病気をご存じでしょうか。患者数は全国で18万人を超えると推定されており、近年では結核よりも増えています。当センターでは新たにNTM・気管支拡張症包括ケアセンターを開設し、NTM症の診療体制を強化しています。NTM症や新設されたセンターについて、呼吸器内科の出雲雄大副院長(呼吸器内科部長)と坂本慶太医師に話を聞きました。

NTM包括ケアチーム

人から人には感染しない 中高年のやせ型の女性に多い

——NTM症とはどのような病気なのですか。
坂本:非結核性抗酸菌(NTM)という、抗酸菌の仲間に感染することで発症する呼吸器疾患です。 主な症状としては長引く咳や痰があり、全身症状として食欲低下、体重減少、微熱、だるさなどがみられることもあります。 2014年のデータでは人口10万人あたり約15人の患者さんが新たに発症しており、近年急増しています。 CTやレントゲン技術の発達によって見つかりやすくなっていることが一因と考えられていますが、 はっきりとした原因はわかっていません。また、実際にはこの数字以上にNTM症と診断されていない潜在的な患者さんが多くいると思われます。
 NTM症と似たような感染症に結核があります。結核の原因である結核菌、ハンセン病の原因のらい菌、そしてNTMは全て抗酸菌と呼ばれるグループに属しています。 抗酸菌のうち、結核菌とらい菌を除いたものがNTMです。これらにどういった違いがあるかというと、結核は人から人に感染する一方、NTM症は人から人に感染しないと考えられています。

——NTM症は人から人に感染しないとのことですが、ならばどのような感染ルートがあるのですか。
坂本:NTMは水や土壌に多く生息しています。水回りでいえばシャワーヘッドなど常に濡れているところにNTMが多くいます。土の中にも多くいるので、 昔井戸水を飲んでいた、趣味でガーデニングをしている、農業を営んでいる方などは比較的感染しやすいと考えられますが、その他にも多くの要因が絡みあっていると考えられています。

患者さんの特徴としては、ざっくりと2パターンあり、①中高年のやせ型の女性、そして②喫煙歴のある高齢男性です。ただ、その理由についても詳しくわかっていません。

NTM症と新たに診断される患者数
NTM症は中高年の女性に多い

特効薬はない 複数の薬で進行を抑える

——NTM症はどのタイミングでみつかることが多いのでしょうか。
坂本:初期のNTM症は症状がないことが多いため、健康診断や人間ドックでのCTやレントゲン検査で肺に影が見つかり、 それをきっかけに受診されるケースが増えています。NTM症の疑いがあれば、痰から細菌を培養し、NTMの存在を証明することが診断の第一歩といえます。

——NTM症の治療法を教えてください。
坂本:基本的な治療法は飲み薬(抗菌薬)で、他には注射や吸入による治療があります。NTMに劇的に効果のある抗菌薬はなく、薬剤耐性菌の出現のリスクを考慮して、いくつかの種類の抗菌薬を組み合わせて服用する「多剤併用療法」が一般的なNTM症の治療になります。一方で難治性のNTM症も多く存在しており、一旦症状がおさまっても再発する患者さんは珍しくありません。その場合、「症状が悪くならないための治療」という考えも重要になってきます。治療が長期にわたり、目に見えて症状が改善するという実感が得られにくい患者さんもいるため、患者さんやご家族だけでなく私たち医療スタッフにとっても厄介な病気です。
 今後、研究が進んで有効な薬が開発されることを期待しています。

NTM症の主な症状

NTMと長く付き合うための包括ケア

——新しく開設された「NTM・気管支拡張症包括ケアセンター」について教えてください。
坂本:このセンターでは、NTM症と、「鶏と卵」の関係にある気管支拡張症の両方を専門に診療します。気管支拡張症は、アレルギー疾患や繰り返す肺炎、自己免疫疾患などによる炎症によって気管支が広がったまま戻らなくなる病気です。換気の効率が悪くなり、「空気のよどみ」のような環境が生じて痰を排出しにくくなり、NTMなどに感染しやすくなります。他方、NTM症に感染すると肺の組織がダメージを受け、気管支拡張症に至ることがあります。NTM症と気管支拡張症は、一方がもう一方を悪化させる表裏一体の関係にあるため、両方の疾患に幅広く対応できるセンターとしました。
出雲:このセンターで重要なことは「包括ケア」という言葉が入っていることです。NTM症は「これだけやれば治る」病気ではなく、長い間付き合っていくことになります。しかも、薬だけで治すことが難しく、症状がおさまったからといって薬を飲むのをすぐにやめていいわけではありません。
 そこで大切になるのが、食事や運動も含めて多方面から病気にアプローチすることです。しかし、医師が持っている知識や時間には限りがあります。そこで、看護師や理学療法士、管理栄養士、薬剤師などがチームになり、多職種が連携する体制を構築しました。薬だけでは治らないからこそ、包括的にケアしていくことがとても大切になるのです。「病気を治す」ことだけを目標にするのではなく、病気を抱えながらも自分らしく前向きに生活できるようにサポートするという狙いがあります。

教育入院で習得する 呼吸と食事のコツ

——NTM症の教育入院があると聞きました。これはどのようなものですか。
坂本:「一生役立つ『呼吸と食事のコツ』を身につけるための短期集中プログラム」で、薬物治療主体の入院ではなく、日常生活でNTM症と付き合っていくためのコツの勉強と練習のためのものです。部活や学習塾における1週間程度の合宿のようなものだと考えてください。ここでも、多職種が連携してさまざまなコツを伝授します。例えば、痰を出す方法は理学療法士が指導します。痰がたまることで肺炎などの他の感染症にかかりやすくなるだけでなく、呼吸のしにくさがQOL(生活の質)低下にも大きく関わります。排痰は「肺の掃除」のようなもので、少しでも快適な生活につながるテクニックです。食事については管理栄養士が担当し、普段の実際の食事量を確認し、本当に必要な食事量はどれくらいか、また、どのようなものを摂取するのが良いかを理解してもらいます。
出雲:患者さんの中には、低栄養状態で噛んだり飲み込んだりする筋肉が衰えており、食事もままならない方もいます。管理栄養士の専門知識を活用して、必要なエネルギーやたんぱく質を計算するだけでなく、どうすれば食べられるかということも考えます。
坂本:患者さん一人一人の食事の状況を外来の診療だけで十分に知ることは難しいので、教育入院の場でしっかり把握するように努めています。他には、薬の副作用と上手に付き合いながら服用を続けるための「薬の飲み方のコツ」も学ぶことができます。
 大切なことは、この教育入院が終わったらゴールではなく、入院中に学んだ技術や知識を自宅で続けることです。NTM症は長い付き合いになるからこそ、一生役立つ技術と知識を学んで、その知識を活用し続けてほしいと思います。その知識は薬を飲むことと同じくらい大事になります。
出雲:NTM・気管支拡張症包括ケアセンターの短期集中プログラムは、当センターで実績のある間質性肺炎センターをモデルにしています。間質性肺炎センターでは、呼吸器疾患の一つである間質性肺炎を診療しています。多職種で連携して、薬による治療だけでなくリハビリテーションや栄養管理、心理カウンセラーによる心のサポートまで包括的なケアを行っています。
 当センターのような病院は、地域のクリニックに比べてスタッフの人数も職種も多いのが特徴です。その専門性を存分に生かしたいと思っています。今後、いろいろな病気に対して、多職種連携による包括ケアが新しい医療のスタンダードになると考えています。そのためのモデルとしてNTM・気管支拡張症包括ケアセンターが機能することを目指しています。

短期集中プログラムのスケジュール 医師と患者

かかりつけ医と地図を共有するダブルサポート体制

——退院後の通院はどうなるのですか。
坂本:短期集中プログラムで学んだことを日常の中で実践していくわけですが、かかりつけ医となる地域のクリニックの先生と二人三脚でNTM症と付き合っていくことが重要と考えています。当センターが治療方針の大枠となる「地図」をお示しして、かかりつけ医の先生と患者さんと、皆が私たちと同じ方向を見て治療に当たります。
出雲:日常生活の中では、痰が増えていないか、微熱が続いていないかなどを意識して、普段の診療はかかりつけ医で受けてほしいと思います。一方、症状が右肩下がりに悪くなってきたら当センターに相談していただければ、新しい地図を作り直します。もちろん、命に関わるような急性増悪があれば当センターで緊急受診できるよう、私たちが受け皿となります。
——症状が悪化しないために日常生活で気をつけることはありますか。
坂本:NTM症では気管支が拡張していることも多く、他の感染症にかかりやすくなります。マスクや手洗い、ワクチン接種などで感染予防に努めてください。ただ、感染を恐れるあまり、外に出なくなるのは筋肉の衰えにつながってしまいます。感染対策をしながら程よく運動し、上手に付き合っていただければと思います。また、そういった患者さんの悩みに私達が少しでも力になれれば良いなと考えています。


坂本 慶太
呼吸器内科 医師
坂本 慶太(Keita Sakamoto)

患者さんへのメッセージ
NTM症とうまく長く付き合うためにはご家族の理解とサポートが欠かせません。食べることが難しい患者さんもいますので、ときには外においしいものを食べにいって食べる喜びを共有することも大切になります。患者さんとご家族が同じ時間を過ごしながら、病気と共存する道を歩んでいただきたいと思います。

出雲 雄大
副院長 兼 呼吸器内科部長
出雲 雄大(Takehiro Izumo)

患者さんへのメッセージ
NTM症は人から人に感染しないと考えられているので、周囲の人が過度に接触を避ける必要はありません。症状が長引くので、患者さん本人だけでなく、ご家族も大変な思いをします。短期集中プログラムの内容はご家族にも有用ですので、ぜひ当センターを利用していただきたいと思います。

ページトップへ