検査と診断
狭心症の診断と検査は余裕がある場合には外来で行います。不安定狭心症や心筋梗塞が疑われる場合には、すぐに入院していただくこともあります。これは、ひとえに命を守るためといっても言い過ぎではありません。
初めて外来に来られた場合にはお話を聞き、どのくらい動脈硬化の促進因子をお持ちであるかを教えていただき、必要な検査を行っていきます。レントゲン、安静時心電図、血液、尿の検査、脈波の検査は基本的な検査ですが、動脈硬化の促進因子や現状を知る上で大変に重要な検査です。
上で述べたような動脈硬化の促進因子を複数お持ちの場合には特に念入りにその後の検査を進めていきます。促進因子が一つもない方では狭心症の可能性は低くなりますが、ゼロではありません。
冠動脈に重大な狭窄があるどうかを知るためにはさらにいくつかの検査を予定します。心エコー検査、ホルター心電図検査、運動負荷心電図検査、負荷タリウム心筋シンチグラム、または冠動脈CT検査です。心エコー検査、ホルター心電図検査、運動負荷心電図検査は簡易スクリーニングとして行う検査です。さらに疑わしい場合やはじめから疑わしい場合には負荷タリウム心筋シンチグラム、または冠動脈CT検査を行い、最終的に確定診断をつけるためには入院していただき冠動脈造影という検査を受けていただきます。なぜ、回りくどい検査をいろいろ行うかといえば、冠動脈造影検査をはじめから行えば確定診断はすぐにつくのですが、なにぶんにもこの検査には入院(当センターでは二泊三日)が必要であること、動脈に針をさして細い管を心臓に管を入れる検査で、いわゆる侵襲的な検査であること、必要以上に無用な入院や検査をできる限り減らすために外来での検査を優先しています。しかし、不安定狭心症が考えられるような場合には時間的余裕がありませんので、直ちに入院していただき速やかに冠動脈造影を行うこともしばしばです。それぞれの検査について簡単に説明しましょう。(下図)
- 心エコー検査:30分ほどで終わる超音波検査です。心臓の大きさ、動き、構造を診断できます。心筋梗塞があると心臓の壁の一部分の動きが悪くなります。
- ホルター心電図検査:一日24時間分の心電図を記録する検査です。胸に電極を貼り心電図を記録する装置をとりつけ帰宅、翌日に再度来院していただき機器を外します。24時間分の心電図変化をコンピュータにより解析します。狭心症では脈拍が速くなったときに心電図が変化することがよく認められます。
- 運動負荷心電図検査:ベルトの上で歩いていただき心電図変化を記録します。10分以内のことが多いですが、脈拍が目標値まで上昇するまで負荷をかけますので汗をかく検査です。膝や腰が悪いかたでは困難な検査です。
- 負荷テクネシウム心筋シンチグラム:放射性同位元素という薬を注射して心臓の筋肉の血液の流れのバランスの悪い場所を探します。詰まりかかった冠動脈の場所の推定も可能です。15分間のスキャンを3−4時間の休憩をおいて二度行いますので、午前中半日かかりとなる検査です。可能であれば自転車をこいでいただき、喘息がなければ、薬物負荷テストを追加します。足腰の悪い方でも安心して検査が受けられます。
- 冠動脈CT検査:冠動脈の状況を入院せずにある程度検査することが可能な検査です。この検査で動脈硬化が軽度であれば、まずそれ以上の検査は必要ありません。しかし、石灰化が強い場合や不整脈、冠動脈形成術後の方はこの検査のみでは診断がつきにくいため、入院のうえカテーテル検査による冠動脈造影が必要となることがあります。
- 心臓カテーテル検査は専用のカテーテル検査室で行います。術者は手術と同じ清潔操作でガウン、マスク、帽子などを着用します。検査は1時間以内で終わることが通常ですが長くかかることもあります。冠動脈の入り口までカテーテルと呼ばれる細い管をいれ、動脈の中に造影剤を流し込みながらレントゲンで撮影します。動脈硬化で細くなった冠動脈が認められた場合には、結果を説明の上、日を改めて冠動脈形成術により治療を行うのが一般的です。
ホルター心電図
運動負荷心電図
マルチスライスCT
心エコー
最新の冠動脈CTの優れている点
当センターの320列冠動脈CTは、冠動脈の撮影用に開発された機種です。以前の機種にくらべて、画質が改善され、より正確な診断が可能になりました。また、撮影にかかる時間も短縮され、台の上で息こらえをする時間が短くなっています。造影剤を使用しますので、アレルギー反応や喘息のある方は注意して行いますが、入院をしなくても、冠動脈の状態を調べることが可能です。
最新のFFRCT解析について
冠動脈CTの画像データにFFR
CT解析を行うことで、CT画像で狭窄(血管が狭くなった状態)が見つかった場所の血液の流れを計算することができるようになりました。FFT
CT解析では、既に撮影された画像データを使用しますので、新たな被ばくなどの身体的危険性がなく結果を得ることが可能です。この結果は、担当医師が患者さんに対してどのような治療を行うのが最適かについての、方針決定を行う際に大変役立ちます。
検査にあたっては、撮影された画像データが匿名化された形で米国の解析専門施設に送信され、その解析専門施設において解析が行われます。解析結果は数時間で電子データの形で病院に返信されます。
当センターではFFR
CT解析をいち早く導入しましたが、この検査が可能な病院は厚生労働省により定められているため、冠動脈CTができる病院の中でも限られた病院でのみ実施可能です。
FFT
CT検査については、下記リーフレット(PDF)をご覧ください(画像をクリックしてください)。
最新カテーテル治療
冠動脈形成術とはどんな手術か
冠動脈形成術は冠動脈造影の延長線上にあります。基本的には診断検査と同じ方法で、手首や腕または足の付け根の動脈から細い管(カテーテル)を心臓まで入れます。診断検査と異なり、治療の場合には冠動脈の入り口からさらにその奥の冠動脈内まで道具を入れていくことになります。冠動脈の血管の直径は2−4mm程度、冠動脈内に入れてゆくカテーテルの太さは1mm程度のものとなります。いかに細かい作業かがお分かりいただけると思います。心臓の治療ですので細心の注意が必要であることは言うまでもありません。治療をうける方はベッド上に仰向けになっていただき、局所麻酔のみを使用し目は覚めた状態です。術者は声かけをしながら治療を進めていきます。まず、ガイドワイヤと言われる髪の毛のようにほそい金属製のワイヤを挿入して狭くなった、あるいは詰まってしまった冠動脈の病変部を通過させます。このワイヤを伝わらせて風船やステントといった道具を冠動脈の中に持ち込み、狭いところを拡張していきます。(図3、4)かかる時間は病変の手強さによります。一時間以内に終わる場合から、時には何時間もかかることもあります。
【図3】
- バルーン形成術
- ステント留置術
薬剤溶出ステントとは何か
<メリット・デメリット、適・不適など>最近開発された冠動脈用ステントには細胞の増殖を抑える薬を染み込ませたいわゆる“薬剤溶出性ステント”といわれるものがあり、当センターでも多用しています。ステントは植え込み後は増殖する細胞に覆われて血管の壁の一部となっていきます。金属製のステントは縮むことはないのですが網目から増殖した細胞でステントの内側、つまり血管の中が再び狭くなる現象が起こることがあります。これを“再狭窄”と呼びます。したがって、退院の後、6−8ヶ月後に再狭窄検査のために再入院していただきます。この再狭窄をできるだけ抑えるように作り出されたのが薬剤溶出性ステントです。このステントは再狭窄を半分以下にすることができます。しかし、金属がいつまでたってもむき出しのままの部分があると血栓症を起こしかねないため、二種類の抗血小板薬をより長く服用していただく必要があります。したがって、これから手術を控えている、あるいは手術を受ける可能性が高い場合には抗血小板薬の中断が必要のため、そのような症例では薬剤なしのステントを使うこともあります。
【図4】
ロータブレーターの施設基準を満たしています
当センターはロータブレータ使用の施設基準を満たしております。この装置は基本的に歯医者さんのドリルと同様のものです。先端にダイヤモンドの粉をつけた直径1.25-2.25mmのドリルバーを20万回転/分で高速回転させて硬い病変を削る道具です。通常の風船が通過しないあるいは広げられない硬い病変で威力を発揮します。ロータブレータで処理をした後に風船で拡張し、ステント留置することが一般的です。
【図5】
先生の技術のここがスゴイ!
ロータブレータは役に立つ道具ですが反面、使い方では危険な道具です。熟達した冠動脈形成術専門医の手による治療が必要となります。当センターでは必要な症例では積極的にロータブレータを用いた治療を行っております。
救急で運び込まれた場合の対応について
冠動脈疾患もご他聞に漏れず早期発見、早期治療が原則です。万が一、激しい発作に見舞われた場合には一刻も早い治療の開始が迫られます。まずは、大至急病院に来院していただくことが第一です。救急車の利用がよいでしょう。24時間対応していますので、夜中でも大至急行動することが大切です。来院されれば専門のスタッフが必要な処置をはじめ、必要であれば90分以内に心臓カテーテル治療を開始しています。
予後と2次予防のための薬物療法のこと
我々が冠動脈形成術で治療可能なのは、冠動脈の一部の詰まりかかった部分のみです。そのほかの大部分の冠動脈は狭窄が強くなければ治療しません。しかし、動脈硬化は冠動脈全体で進行してゆき、またいつか別の部分に詰まりかかるような病変を生じます。このような進行を防ぐ手だてを予防、あるいは二次予防と呼びます。これは、カテーテルでは行えません。まさに、一人一人の生活習慣と通院内服による治療が大切となります。具体的には、禁煙、減量、運動の励行、血圧、コレステロール、糖尿病のコントロールなどが動脈硬化を進めないための根本的治療と言えるでしょう。