救急科の特色

(1)救命救急センターの統括管理

外来部門では、一次あるいは、すべての二次救急診療から組織的な救急診療の提供へと結びつけています。
救急現場に従事する研修医の教育も含めて一元的な体制のもとで救急医療が提供され、その上に診療各科の専門診療能力が活かされる体制へ改変されています。また、外来部門を通じて「病院前診療体制」、救急隊ならびに近隣病院群との密接な連携関係の構築も我々の業務であり、救急救命士をはじめとした「救急隊員教育」や、救急医療の東京ルールを通じた近隣医療機関との医療連携構築はまさに「地域のメディカルコントロール体制」の確立に他ならないと考えています。

病棟部門について、救急科により病床管理が行われることで、日々の救急診療に必要な「空床確保」を心がけています。空床の確保は救命救急センター外来において診療される患者の入院先として、救命救急センターのEICU・救命救急病棟のどちらが適しているかの判断に始まり、EICUと救命救急病棟間では重症患者の発生により、24時間体制で患者の転入・転出管理を行っています。また移動先としての救命救急センターからICU、一般病床そして転院や退院といったあらゆる方向への転出についての「ベッド調整」を意味します。
ことに我々の診療する患者背景は「突然発症(受傷)」した状況から始まるわけで、その患者背景にある「かかりつけ医療機関」、「居住区近隣医療機関」等への調整も含まれます。救命救急センタースタッフの調整能力により、常に空床を確保することが可能となっています。
こういった日常業務の遂行のため、EICUはもちろん、救命救急病棟にて治療をしているすべての患者の病態について、診療科の所在に関係なく把握しておく必要があり、不必要な集中治療や入院診療の継続を回避する努力がなされています。それ故、両病棟の平均在院日数は4日台を継続して維持しています。

ドクターカー(ラピッドレスポンスカー)運行

2020年10月より東京消防庁の「キーワード方式」による要請に基づき、渋谷区・目黒区・港区の一部地域において緊急性の高い傷病が疑われるときや多数傷病者事故などのときに、当センターの医師や看護師が現場に急行することができます。また、当センターは東京都から「母体救命対応総合周産期母子医療センター(スーパー総合周産期センター)」の指定を受けており、医療機関同士の協定書に基づき、他の医療機関で重症化した妊産婦に対応するため、ドクターカーで当センターから医師等を派遣する運用も始めています。

多職種連携(チーム医療)の実践

救命救急センターでは多職種の協働により診療が行われていることは明らかであり、日常からのそれぞれのコミュニケーションを確立するため、二つの活動がなされています。
一つ目は朝に開かれる「診療カンファレンス」です。この場には医師・看護師だけではなく、薬剤師、認定心理士、臨床工学技士、管理栄養士、療法士、医療ソーシャルワーカーが一堂に会する、場合によっては研修している救急救命士や学生も同席します。外来患者からEICU、救命救急病棟、一般病棟に入院している救急科診療患者について検討されます。
二つ目は1回/月で開催される「救急合同カンファレンス」です。「診療カンファレンス」に出席する職種に加え、医事課と医療連携課が出席し、救命救急センター全体の運営上の診療報酬、診療体系、医療連携等の問題点やセンター内行事について議論をする場として継続しています。

(2)研修医の救急医療教育

当医療センターでは3ヶ月の救急科研修に加え、概算1ヶ月強の救命救急センター外来診療研修で4ヶ月間の「救急医療研修」としています。また後期研修医も3年間の研修期間中に救命救急センターにおける救急医療に従事しています。
もちろん、初期・後期研修医ともに実際の救急医療現場の原動力として当科スタッフと関係を密にしています。

救急医育成のために:
・「救急科専門医」育成プログラム;日本専門医機構の発足により2017年(平成29年)「専門医」育成課程が整備されます。日本救急医学会も専門医育成のためのカリキュラムの整備を行っており、当医療センターもプログラムの認定をいただいています。
・臨床初期研修・総合診療・救急コース;当医療センターの初期研修医コースの中に設定されています。当コースの特徴は「救急医になるために」と「最初の2年間に救急診療に軸を置き」と思う方々どちらにも共通する、満足いただけるカリキュラムと自負しています。

(3)院内救急診療システムの構築と維持管理

院内救急診療システム構築に向けて1回/4ヶ月で救命救急センター運営会議を開催しています。この会議においては、救命救急センターでの各診療科ならびに看護部、そして他職種の委員選出を通じて運営実績の周知、運営上の問題点の抽出と改変を繰り返しています。本会議での決定事項は病院幹部会議においても共有され、強固な組織作りに努めています。

(4)救急救命士をはじめとした救急隊員への教育

救急救命士をはじめとした救急隊員教育は、当科の「病院前救護体制確立」のためには不可欠な分野で、On the jobトレーニングを中心とした「救急救命士再教育研修」「薬剤投与研修」「救急救命士・就業前研修」「救急標準課程研修」といった東京消防庁の規格研修に加え、個別の救急活動における指導を含めて大きく関与しています。また、国士舘大学・帝京大学の救急救命士を目指す学科の学生病院実習も受け入れることにより、多くの研修に従事しています。

(5)地域メディカルコントロール(MC)体制における連携体制の構築

東京都のMC体制は都下(東京消防庁)を枠組みとした体制で、きわめて巨大な組織運営を基本とした形態であります。一元的な管理を目標とした組織作りとしては許容されますが、救急隊とその周囲医療機関との繋がりを考えたいわゆる二次医療圏といった枠組みでのMC体制への配慮が見えにくい状況にあるのはいうまでもありません。そういった意味で前述の「救急医療の東京ルール」における「地域救急医療センター構想」は、二次医療圏での救急医療のあり方を考える手法の一つとして今後の救急医療体制を構築する上で重要な位置にあると考え、当医療センターは地域救急医療センター・幹事病院を引き受けることとしました。東京都の救命救急センターとしてだけでなく、地域の救急医療を支える病院としてその力を発揮したいと考えております。
以上のような役割を担いながら、当医療センターにおける救急医療のあり方を検討し、院内外の救急医療充実のために日々努力をしているのが当科の存在意義と考えております。

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