当科では、主に乳がんに対する治療を行っております。
当科で作成しました「乳がんハンドブック」で当センターにおける診療の流れや、治療について紹介していますので、ご参照ください。
乳がんハンドブック(PDF)・Breast Cancer Handbook(乳がんハンドブック:英語版)(PDF)からご覧ください。
※日本乳癌学会から乳がんに関する説明動画が公開されておりますので、以下のURLをご参考ください。
・センチネルリンパ節生検(リンク:外部サイト)
・乳房の手術(リンク:外部サイト)
・腋窩リンパ節郭清(リンク:外部サイト)
乳がんの診断
①当科の診療の基本的な流れ
②乳房の検査
乳房の検査には画像検査と病理検査があります。
以下、「しこり(腫瘤)」や「石灰化」という所見が出てきますが、しこりや石灰化は乳がんだけでなく、良性の病変でも見られます。
画像検査
マンモグラフィ
X線フィルムの入った台と透明なプラスチックの板で乳房を挟み、乳房を薄く平らに伸ばして撮影します。圧迫することで乳房内部の様子を写し出すことができます。マンモグラフィの優れている点は手で触れることのできない小さなしこりや、石灰化を発見できることです。マンモグラフィで乳腺の濃度の高い方(若い方で多い)は、しこりの発見が難しいことがあります。検査を受けるときはできるだけリラックスすることで痛みが軽減されます。
実際のマンモグラフィの写真
※マンモグラフィでは病変は白く写ります
超音波検査(エコー検査)
プローブ(端子)を乳房にあてて画像をモニターに映し出す検査です。検査をしながらリアルタイムにしこりの内部を観察することができます。乳腺の濃度に関係なくしこりを見つけることができますが、石灰化を見つけるのは難しいことがあります。わきの下のリンパ節が腫れているかどうかも見ることができます。病理検査(細胞診、針生検)の多くは超音波検査をしながら行います。
実際の超音波検査の写真
※病変は緑で囲った黒いところ。超音波検査では病変は黒く見えます
MRI
超音波検査と比較し、よりしこりの内部の性状が分かりやすく、また乳房の中の病変の広がりがイメージしやすい検査になります。閉経前の方は可能であれば月経開始後5~12日目に検査をすると、月経の影響がなく診断しやすい画像が得られると言われています。喘息のある方は造影剤アレルギーを起こす可能性があり、検査の必要性については主治医と相談します。
実際のMRIの画像
※病変は緑で囲ったところ。MRIでは病変は白く写ります
CT
乳房の中のがんの広がり、乳房以外の臓器に病変が広がっていないか(転移)確認します。
病理診断
細胞診
超音波を見ながら病変に対して採血と同じ細さの注射針を刺して細胞を吸引し、顕微鏡で観察します。組織診と比べ患者さんへの侵襲が少ない検査になります。
組織診
細胞診と比較し、より多くの組織を採取して診断することができます。乳がんの場合は組織診でがんの性質(組織型、サブタイプ、グレードなど)が分かり、治療方針を立てるのに有効な情報を得ることができます。超音波を見ながら行う方法とレントゲンを見ながら行う方法があります。
・超音波ガイド下針生検、超音波ガイド下吸引式組織生検(Celero®)
超音波検査でしこりの位置を確認し、局所麻酔後に針を刺して組織を採取します。検査は仰向けで行います。
・ステレオガイド下吸引式組織生検(マンモトーム®)
レントゲンで石灰化の位置を確認し、局所麻酔後に針を刺して組織を自動吸引します。当センターでは検査は座って行います。
③乳がんの治療
当科で作成しました「乳がんハンドブック」をご参照ください。
乳がんハンドブック(PDF)・Breast Cancer Handbook(乳がんハンドブック:英語版)(PDF)
④術後の診療と地域連携
退院後に外来で連携病院をどこにするか決めます。連携病院はご自宅または勤務先に近い乳腺専門クリニックを当センターからご紹介いたします。当センターには年1回通院していただき、その間の術後の経過観察、内分泌療法のお薬の処方は連携病院で行います。連携病院への通院頻度は3か月から半年ごとになります。抗がん剤治療や放射線療法については当センターで行い、抗がん剤治療や放射線治療終了後から連携病院との連携を開始します。
術後の検査は年1回マンモグラフィと超音波検査を行います。検査は当センターまたは連携施設で行います。当センター通院中は、当センターまたは連携施設以外で乳房の検査は受けないようにしてください。
当センターには術後10年間通院となります。術後10年で当センター通院は終了となります。
当センターではがん看護専門看護師が術後の下着、抗がん剤による脱毛の対応、リンパ浮腫、妊孕性(妊娠・出産)、性生活、就労、医療費、ウィッグや術後下着等の助成金、など乳がんの治療に関係する様々な悩みに対応しています。どこに聞けばよいかわからないことも、まずはがん相談支援センターを訪れてみてください。
予約不要で、外来の前後でも、外来日でなくても来訪は可能です。
がん相談支援センターの場所は当センター1階06で、健康管理センター・病棟案内の向かいになります(平日9時~16時30分)。
⑥メンタルヘルス科
乳がんは診断されてから、治療、経過観察中に気持ちが落ち込む、不安感が募る、イライラする、不眠、疲労感を感じる方が一定の頻度いらっしゃいます。これは乳がんになったことへの感情の表れのこともありますが、原因は乳がんの薬物治療による副作用の場合もあります。当センターにはメンタルヘルス科がありますので、メンタル面もサポートしながら乳がん治療が継続できるような体制を整えています。
⑦乳腺良性腫瘍
乳腺良性腫瘍には線維腺腫、やや増大のスピードが速いことがある葉状腫瘍、乳管内乳頭腫などがあります。大きさが3㎝以上ある場合、葉状腫瘍が疑われる場合は摘出術をお勧めすることがあります。
⑧遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)
日本国内では乳がんのうち5〜10%前後が遺伝性乳がんと考えられており、発症の原因遺伝子としてもっとも多いのがBRCA1/BRCA2の2つの遺伝子です。これらの遺伝子に病的な変化(病的バリアント)があると、乳がんや卵巣がんにかかる可能性が高いことがわかっており、『遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC ; Hereditary Breast and Ovarian Cancer)』と呼ばれています。一般的に200〜500人に1人がHBOCに該当すると言われ、女性の乳がん患者の4%ほどがHBOCだと考えられています。
HBOCは常染色体優性遺伝のため、親から子へ50%の確率で遺伝します。HBOCの可能性を検討する際には、ご自身や血縁者のがんの発症部位や発症年齢などの「家族歴」が参考になります。
BRCA1/BRCA2の遺伝学的検査によりHBOCと診断された場合には、適切な治療法の選択やご家族を含めた「がんの予防」につなげることができます。
<HBOCに関連するがんとその発症頻度>
がんの種類
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日本人一般
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BRCA1遺伝子の病的
バリアント
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BRCA2遺伝子の病的
バリアント
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乳がん(女性)
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10.6%
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46〜87%
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38〜84%
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乳がん(男性)
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0.1%(欧米)
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1.2%
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最大8.9%
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卵巣がん
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1.6%
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39〜63%
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16.5〜27%
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前立腺がん
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10.8%
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〜29%
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〜60%
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膵臓がん
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2.5%(女性)
2.6%(男性)
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1〜3%
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2〜7%
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( 日本HBOCコンソーシアム「遺伝性乳がん卵巣がん症候群 (HBOC)をご理解いただくために ver.2023_1」 より)
BRCA1/2遺伝学的検査
遺伝学的検査は血液中の白血球を使用して行うため採血検査を行います。以下のいずれかの項目に当てはまる場合には保険診療の対象となります。費用は3割負担で約6万円です。下記に該当しない方で検査を希望される場合は自費での検査となり、費用は約20万円です。検査結果は外来主治医が説明します。
・がんの治療において、分子標的薬オラパリブの適応かどうかを判断する場合
・45歳以下で乳がんと診断された
・60歳以下でトリプルネガティブ乳がんと診断された
・両側の乳がんと診断された
・片方の乳房に複数の乳がん(原発性)を診断された
・男性で乳がんと診断された
・卵巣がん・卵管がん・腹膜がんと診断された
・ご自身が乳がんと診断され、血縁者*に乳がんまたは卵巣がんまたは膵臓がん発症者がいる
*血縁者の範囲:父母、兄弟姉妹、異母異父の兄弟姉妹、子ども、おい・めい、父方あるいは母方のおじ・おば・祖父・祖母、大おじ、大おば、いとこ、孫など
遺伝カウンセリング外来
遺伝カウンセリングでは、HBOCの特徴や検査のメリットなどについて理解を深めていただきます。また、家系図を作成しHBOCの可能性について検討します。 当センター乳腺外科にかかりつけの方で遺伝カウンセリングをご希望の方は、外来主治医にご相談ください。検査の結果HBOCと診断された方はHBOCについての理解を深めて頂く必要がありますので、その場合は主治医から遺伝カウンセリングをご案内致します。また、紹介状をお持ちの方はかかりつけの医療機関から医療連携課を通じての予約が可能です。紹介状の無い方でも遺伝カウンセリング外来を受診することが可能ですので、ご希望の方は電話予約をしてください。
<遺伝カウンセリング外来(予約制: 第2・3水曜日 13時~、15時~)>
料金:5,500円/回(税込・※健康保険適応外のため診察日とは別日に予約となります)
当科かかりつけではなく
・紹介状のある方:かかりつけの医療機関から医療連携課を通じて予約して下さい
・紹介状のない方:当センター総合番号 03-3400-1311 に電話の上、「乳腺外科の遺伝カウンセリング希望」とお伝えください
HBOCの対策・治療
①乳がんの定期検査(サーベイランス)
HBOCと診断された場合には乳がんの検査を定期的に行い、乳がんの早期発見につとめます。すでに乳がんを発症しHBOCと診断された場合、術後10年間は保険診療で検査を行いますが、術後10年以降は自費検査となります。また乳がん卵巣がん未発症の場合は最初から自費検査となります。以下が推奨されている定期検査の内容です。
<乳がんの定期検査>
・18歳〜 乳房の自己検診
・25歳〜29歳 半年〜1年ごとの視触診+年1回の造影乳房MRI
・30歳〜75歳 半年〜1年ごとの視触診+年1回のマンモグラフィ+造影乳房MRI
・75歳以上 個別に相談
②リスク低減手術
がんを発症する前に予防的に切除をする方法を「リスク低減手術」と呼びます。これは「予防切除」とも呼ばれています。遺伝学的検査の結果HBOCと診断された場合のみリスク低減手術を行うことが可能です。乳房と卵管卵巣のリスク低減手術があります。
(1)リスク低減乳房切除術
乳房の予防切除には、両側リスク低減乳房切除術(Bilateral Risk Reducing Mastectomy:BRRM)と対側リスク低減乳房切除術(Contralateral Risk-Reducing Mastectomy : CRRM)があります。BRRMは乳がん未発症者における両側乳房の予防切除を、CRRMは乳がん既発症者における対側乳房の予防切除を指します。これらの手術では乳房を全て切除し、ご希望に応じて同時に乳房の膨らみを作る乳房再建術を行います。
(2)リスク低減卵管卵巣摘出術(Risk-Reducing Salpingo-Oophorectomy: RRSO)
RRSOはBRCA1/2の遺伝子バリアントを保有するがん未発症者に対する最も確実ながん予防法と言われています。卵巣がんは定期検査を受けていてもなお早期発見が難しいがんです。卵巣がんや乳がんを発症する前に両方の卵巣および卵管を切除することで、卵巣がんや乳がんの発症のリスクを下げ、死亡率を改善することがわかっています。一般に、RRSOはBRCA1の病的バリアントでは35歳〜40歳で、BRCA2の病的バリアントでは卵巣がんの発症年齢が8〜10歳遅いため40〜45歳で行うことが推奨されています。実際にはご本人の出産希望なども考慮した上で手術時期を判断します。
BRRMやCRRMのご希望がある方は外来主治医と、RRSOの希望がある方は当センター婦人科医師と相談していただきます。すでに乳がんか卵巣がんを発症しておりHBOCと診断されている場合、これらのリスク低減手術は保険診療となります。一方、HBOCと診断されたものの、乳がん卵巣がんのいずれも未発症の場合には、リスク低減手術は自費となります。術式により金額は異なりますが、自費診療の場合の費用の目安は以下の通りです。
<リスク低減手術の料金(自費の場合)>
・RRSO: 約70〜120万円
・BRRM: 約150〜250万円 (乳房再建あり・なしを含む)
・CRRM: 約120〜200万円 (乳房再建あり・なしを含む)
③PARP阻害薬
乳がんの治療薬にPARP阻害剤という内服薬があります。PARP阻害剤はHBOCの方に適応となる薬です。適応がある場合には必要に応じて主治医から検査をお願いすることがあります。
<PARP阻害薬の乳がんにおける適応>
・がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌
・BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術後薬物療法
<保険診療と自費診療の区分>