これからのあなたを支える、血液透析・腹膜透析・腎移植
腎不全とは
病気が進行して腎臓の働きが正常の30%を下回り体内の老廃物や余分な水分を排出できなくなった状態のことをいいます。老廃物が体内にたまると、むくみや食欲不振、疲れやすい、集中力低下などの全身症状が出てきます。(症状は慢性の場合自覚しにくく治療開始した後に「あの時は・・」と気づかれることも多いです)
そして、腎機能が15%以下で症状があるとき、症状がなくとも6%以下の場合はご自分の腎臓だけでは全身のバランスがとれなくなるため腎臓の機能を他で補う腎代替療法が必要となります。
腎代替療法(腹膜透析、血液透析、腎移植)について
腎代替療法には
- 自宅などで行う腹膜透析
(PD:Peritoneal Dialysis)
- 医療機関に週3日通って行う血液透析
(HD:Hemodialysis)
- 自宅で行う在宅血液透析 (HHD:Home Hemodialysis)
- 腎臓移植があります。
当センターでは全ての腎代替療法を提供いたします。日常的に生活の一部として行っていくため今後の生活をイメージし患者さんご家族で相談しできるだけ主体的に選んでもらいます。そのため治療の選択は医師のみでなく看護師や臨床心理士、状況に応じて先輩患者さんの声やDVDなど用いて何回も納得するまで行えるようサポートします。また一度どちらかで行っても体の状況や生活の状況に応じて変更することも可能です。ご相談ください。
【PDファーストとは?】
腎臓の機能が残っている(=尿が出ている)間はPDで腎臓を守りながら緩やかに透析を行い、尿がなくなったらHDとの併用もしくは切り替えを行うことです。PDは2013年末の日本透析医学会統計を見ても、透析治療をしている約31万4800人のうち腹膜透析は約9240人にしかいません。その最大の理由は実施している医療機関がHDに比べて圧倒的に少ないことですが、自宅でできるという点や残腎機能保持によるメリットのある方法なので当センターでは情報をきちんと伝えることを徹底しています。
腹膜透析(PD)
おなかに透析液を入れ、腹膜を介して体内の老廃物や水分を取り除く方法です。日中に手動で透析液を交換するCAPD(交換数は残腎機能により1〜4回程度)という方法と、就寝中に装置を使って自動的に交換するAPDという方法があります。自分の腹膜を利用し連続して行えるので最も生体腎に近い治療法といえます。腹膜は肝臓、胃腸など内臓を保護する役割を担っていますが全体に毛細血管がありこれを利用して血中の老廃物や余分な水分が透析液に移行し、その液を体外に出すことで血液の浄化ができます。透析液の出し入れをするため一度チューブ(カテーテル)を簡単な手術によって腹部に埋め込みます。透析液を腹腔から排液し新しい液を注入することをバッグ交換と呼びます。バッグ交換は特別難しいことではなく医療スタッフの指導を受ければ誰でも行えます。高齢者や視力障害者、手先が不自由な方の場合はサポートを受けることができます。
チューブに透析液をつなぐ注液には約10分かかり終わればチューブを外します。透析液が腹腔内に留まっている状態が貯留で貯留している間自由に活動することができます。貯留中に腹腔に移動した老廃物を含む液を体外に出す排液には約15分かかります。
PDは在宅治療が基本となるので、月に1~2回の通院で治療を行うことが可能です。そのため透析液の交換以外は今まで通りの生活を続けることができ、通学、就労、家事、旅行などが可能です。治療は生活に合わせて組みますのでご相談ください。
PDを良好に長く続けていくためのコツは?
PDができなくなる原因は主に
1.体液過剰
2.感染です。
体液過剰は、塩分管理が重要で塩を摂り過ぎると喉が渇いて水を飲み過ぎてしまい(8gの塩で約1Lの水に相当)水分が増えると血圧も上昇し心臓に負担がかかります。
感染は、カテーテルの出口部を清潔に保ち感染予防に努めることが重要です。歯磨きや髭剃りのように日常の一部として慣れていくためのお手伝いをします。ご自分で難しい場合はご家族や訪問看護師にやっていただくことがありご相談ください。
多職種連携
CKD stage3までは原疾患の検査・治療、それ以降はそれに加えて進行をできるだけ遅らせることが必要です。そのために食塩を制限したり、生活の見直しをする必要があるのですが、これらは全て医師や看護師がすることではなく患者さん本人が行うことです。つまり治療の主体は患者さんですが一生付き合っていく病気なので長い間にはさまざまな変化が起こります。仕事の状況は?家族の状況は?どういう思いでこれまで生きてきてこの先どう過ごされたいのか?高齢で通院が大変な患者さん、それを支えるご家族。私たちは、患者さんやご家族のその時々の思いを受け止めながら最善の治療を提供していきたいと思い医師だけでなく看護師、心理士、栄養士、薬剤師、運動療法士など多職種で関わらせていただくことでより多面的な医療を目指しています。
在宅地域医療連携
我が国の高齢者人口は平成26年統計で総人口の25.1%の3190万人となり過去最高、世界のどの国も経験したことのない高齢社会を迎えており、1施設で医療を完結することは不可能です。その先に安心して地域・在宅医療へ移行できること、また専門医療必要時には迅速に病院で対応できる可逆的なシステムが肝要であると考えています。通院困難や介護が必要なご高齢の方、遠方の方などには住み慣れた地域での往診医や訪問看護師、ケアマネージャー、クリニックや病院と連携して患者さんやご家族(介護負担にならないよう)を支えていく仕組みが必要と考えます。入院時は皆が集まってカンファランスを行い、顔のみえる連携を意識して双方向の有機的な連携を行い、住み慣れた地域で安心して治療が行える体制を意識しています。
血液透析(HD)
腎移植
当センターでは2014年冬から全人的総合的腎不全医療(total renal care: TRC)の一環として生体腎移植を開始いたしました。
腎移植とは
失われた腎機能を提供された健康な腎臓によって取り戻す治療法です。特殊な治療のイメージをお持ちかもしれませんがHDやPDと同じようにあくまで腎臓の働きを補う治療、すなわち腎代替療法の1つです。腎移植は親族や姻族から腎臓の提供を受ける生体腎移植と、亡くなった方から腎提供を受ける献腎移植の大きく2つに分けられ、当センターでは生体腎移植のみ行っております。
泌尿器科・腎臓内科医師、看護師、移植コーディネーター、心理士、栄養士、薬剤師、ソーシャルワーカーなど含めた多職種で介入を行うことで保存期腎不全から移植後まで切れ目のない腎不全医療を提供することを掲げております。
腎臓の提供を受ける方をレシピエント、腎臓を提供する方をドナーと呼び、生体腎移植にはドナーからの腎提供の自発的な意思が必要です。そしてレシピエント、ドナーが医学的・倫理的に問題がないことを確認した上ドナーの腎臓をレシピエントに移植する手術を行います。腎移植後は腎機能が回復することが多いですが提供された腎臓はあくまで自己の腎臓ではないため拒絶反応を予防するための免疫を抑える薬(免疫抑制剤)を一生内服し続ける必要があります。腎移植では50-60%以上の健常人に近い腎機能を取り戻すことが可能なため規則正しい生活と内服を守っていただければ生命予後の面でも社会復帰、妊娠・旅行・スポーツなどほぼ制限なく行える面でも優れています。ただし免疫抑制剤を一生内服する必要があること、手術が必要であることが欠点です。レシピエント、ドナー共に4時間程度の手術ですが、特に健康なドナーに対してメスを入れる必要があることは、生体腎移植における最大の欠点であると言えます。
移植の条件
レシピエントは腎臓が悪いこと、ドナーは腎機能が良好であることが必要条件です。レシピエントは透析を行っている必要はなく近い将来腎代替療法の導入が必要と判断された時点で生体腎移植を受けることも可能です(先行的腎移植といいます)。
次にレシピエントとドナーの相性を確かめる検査が必要であり、拒絶のリスクが高いと判断された場合は移植を行うことができません。最近は免疫抑制剤の進歩によってABO血液型が異なっていても腎移植を行うことが可能です。
レシピエント・ドナー共に活動性の感染症や悪性腫瘍を有していた場合まずはそちらに対する治療が必要になるため術前に検査を行って医学的に移植が問題ないことを確認します。外来検査も可能ですが必要な検査は多岐にわたるため両者共に1週間程度の入院で全ての検査を行っていただくことも可能です。
生着率は?
生着率(移植した腎臓が機能している確率)は免疫抑制剤などの進歩によって年々上昇傾向です。
ドナーについて
生体腎移植では健常なドナーにメスを入れることになるため、その判断は極めて慎重に行う必要があります。医学的に問題がないことの確認はもちろん、心理士や精神科医師による自発的な腎提供の意思確認が不可欠です。ドナーの腎摘出術は基本的に腹腔鏡下で行い、従来の開腹手術と比較して疼痛や入院期間(1週間程度)、出血量が少なく抑えられます。手術自体は4時間程度かかりますが、手術による合併症は少ないとされております。またドナーは移植後片腎になるため残った腎臓に対する負荷が増大し高血圧や蛋白尿が出現しやすくなるため移植後はドナーも食塩制限を含めた腎保護に気をつけていただく必要があります。基本的にドナーの腎機能は良好に保たれるとされておりますが、移植後はドナーに対しても当科で経過観察を行っていきます。