【TeaTime94号】特集_血液の病気にチームで挑む 血液内科が扱う病気と最新治療法 

 

病院情報誌
Tea Time94

特集

2025年xx月掲載:Tea Time94号
(2025年・秋号)

血液の病気は種類が多く、治療法もさまざまです。
新しい治療法が次々に登場する一方で、治療に対する
患者さんの価値観を大切にして患者さんと医療スタッフが同じ方向を向く
「協働意思決定」が重要とされています。
血液の病気や治療法、そして病気との向き合い方について
血液内科の塚田信弘部長にお話を伺いました。

血液疾患は誰にでも起こりうる病気

—— 血液内科ではどのような病気を診るのか、教えてください。
塚田:当センターでは血液のがんとよばれる多発性骨髄腫や急性白血病、悪性リンパ腫や、厚生労働省が指定する指定難病であるALアミロイドーシス、再生不良性貧血、特発性血小板減少性紫斑病などを診療しています。特に多発性骨髄腫とALアミロイドーシスは当センターの専門領域で、全国から患者さんが訪れています。血液内科の入院患者さんのうち多発性骨髄腫はほぼ半数、ALアミロイドーシスが約2割を占めます。
健康診断などで血液疾患が疑われるときには、血液検査や尿検査を行い、より詳しく調べるために骨髄検査を行って診断をします。血液検査の中には遺伝子検査を含めることもあります。例えば、血小板が増えすぎてしまう本態性血小板血症という病気については、当センター内で遺伝子検査ができるようになっており、検査当日に結果が出ます。他にも、血液がんの場合には腫瘍細胞の表面に特徴的なマーカー分子というものがあるのですが、それを調べるフローサイトメトリーという検査も外注で実施しています。診断の精度を高めるために高度な検査を行なっているのも当センターの強みです。
他にはX線検査やCT検査も行います。血液疾患では免疫を担う白血球の数が減って免疫機能が低下し、感染症が起きやすくなっているため、血液疾患の治療を始める前に肺炎がないかなども調べます。

—— 血液疾患になりやすい人の特徴はあるのでしょうか。
塚田:年齢はある程度関係しますが、正直なところ、これといった特徴はありません。胃がんや肺がんといった固形がんでは食習慣や喫煙などが影響しますが、私たちが診ている血液のがんではそういった原因になるものが今のところ見つかっていません。よく患者さんから、「何が悪かったのでしょうか」と聞かれるのですが、これという原因はありません。そういう意味では、誰にでも起こりうる病気だといえます。
自覚症状も貧血や骨の痛みなどありふれたものが多く、自分で気づきにくいのも特徴です。健康診断や他の病気の検査で血液疾患が疑われたら、すぐに血液内科を受診して詳しい検査を受けていただきたいと思います。

診療実績(2024年度)
当センター血液内科入院患者数(2024年1月~12月)

多発性骨髄腫の症状

—— 多発性骨髄腫とはどのような病気なのですか。
塚田:血液細胞の一つである形質細胞ががん化した病気です。血液がんは、さまざまな種類のある白血球のどれががん化するかによって分類しています。好中球や好酸球などになる前の前骨細胞ががん化すると急性骨髄性白血病になり、リンパ球になる前の細胞ががん化すれば急性リンパ性白血病、成熟したリンパ球ががん化すると悪性リンパ腫になります。リンパ球がさらに分化した細胞が形質細胞で、それががん化したものが多発性骨髄腫です。 形質細胞は、普段は免疫グロブリンという抗体を作り、細菌やウイルスなどの異物を攻撃します。ところが形質細胞ががん化すると、異物を攻撃しない抗体であるMタンパクが作られてしまい、形質細胞が増殖することで白血球や赤血球、血小板が減少します。

—— 多発性骨髄腫の症状には何がありますか。
塚田:「CRAB(クラブ)」という4つの症状が特徴です。Cは高カルシウム血症、Rは腎障害、Aは貧血、Bは骨病変を英語にしたときの頭文字です。これらの症状がなくても血液中のMタンパクが増えている状態を「MGUS」や「くすぶり型」とよび、多発性骨髄腫の前段階とみなして経過観察とすることがあります。MGUSやくすぶり型が10年、場合によっては20年続いてから骨に病変が生じ、骨折などを機に症候性の多発性骨髄腫と診断されることがあります。 当センターでは多発性骨髄腫の患者さんを多く診ており、MGUSやくすぶり型の患者さんも診療しています。MGUSやくすぶり型の患者さんに対して、治療が必要と判断したらすぐに治療を始められる体制をとっています。

多発性骨髄腫
二重特異性抗体による多発性骨髄腫の治療

多発性骨髄腫の治療法

—— 多発性骨髄腫はどのように治療するのですか。
塚田:薬による治療としては、プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38モノクローナル抗体、副腎皮質ホルモン(デキサメタゾン)の4剤併用療法が多発性骨髄症の初期治療の主流となっています。また、血液細胞のもととなる造血幹細胞を自分自身から採取しておき、大量の抗がん剤投与後に造血幹細胞を戻す自家末梢血幹細胞移植という治療法もあります。
再発した場合にはいくつかの選択肢があります。プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38モノクローナル抗体を使ったことがあり、過去に2回以上再発しているときにはCAR-T細胞療法を受けることができます。CAR-T細胞療法はとても強力で、一度受けると再発するまで薬の投与など何も治療を受けずに経過観察だけで済むという画期的な治療法です。当センターでは治験の段階から関わっていて、今でも力を入れている治療法です。

—— CAR-T細胞療法とはどのような治療法なのですか。
塚田:患者さん自身の免疫細胞であるリンパ球を使って、がん化した形質細胞である骨髄腫を攻撃する治療法です。まず、患者さんのリンパ球をアフェレーシスという方法で採取します。採取したリンパ球を海外の施設に送り、骨髄腫を攻撃できるよう遺伝子組換えを行います。骨髄腫の表面にはBCMAという抗原があり、BCMAを目印にして骨髄腫を攻撃できるように遺伝子組換えを施した細胞がCAR-T細胞です。CAR-T細胞を患者さんに投与する前に、体内にあるリンパ球を薬剤を使って減らしておきます。それからCAR-T細胞を投与すると、体内でCAR-T細胞が増え、骨髄腫を攻撃します。ただし、細胞を海外に送ってから戻ってくるまでに5~6週間かかるのが欠点です。

CAR-T細胞療法の仕組み

—— CAR-T細胞療法以外にはどのような治療法がありますか。
塚田:二重特異性抗体という治療法があります。この抗体は、骨髄腫の表面にあるBCMAと、リンパ球の表面にあるCD3に結合することで、リンパ球が骨髄腫に近づいて攻撃できるようにするものです。すぐに治療を開始したい方や、リンパ球の採取が困難な方の場合には二重特異性抗体が選択肢になります。二重特異性抗体にもいくつかの種類があり、治療選択肢が増えています。

ALアミロイドーシスと治療法

—— ALアミロイドーシスについて教えてください。
塚田:ALアミロイドーシスでは、がん化はしていないものの異常な形質細胞が遊離軽鎖を作り、それが異常な折りたたみ方をしてアミロイドというタンパク質になり、さらにアミロイドが繊維状になって全身の臓器に沈着してさまざまな障害を引き起こします。例えば、心臓にアミロイドが沈着すると心不全や不整脈の症状が現れます。他にも腎臓や消化管、血管の内壁にも沈着します。舌に症状が現れると、舌が口の中に収まらないほど大きくなる患者さんもいます。
 ALアミロイドーシスの発症頻度は、米国のデータで10万人に1人ほどといわれています。希少な疾患は全国のどこの病院でも診られるものではありません。2024年度当センターは約75人のALアミロイドーシスの患者さんに対し治療を行いました。日本の中でALアミロイドーシスをしっかり診断して治療できる病院の1つが当センターです。臨床試験も積極的に行なっており、2021年には多発性骨髄腫の治療にも使われているCD38モノクローナル抗体も使った4剤併用療法が保険適用になり、治療成績も上がっています。
 多発性骨髄腫やALアミロイドーシス以外の血液疾患についても、毎年のように新しい薬が登場しています。その速さに遅れを取らないように、治療ガイドラインに掲載されている治療はなるべく早く取り入れるように努力しています。

ALアミロイドーシス

協働意思決定とチーム医療

—— 治療法がいろいろある中でどう選べばいいのかわからない患者さんもいると思います。どの方法が自分に適しているか、どう考えればいいのでしょうか。
塚田:多発性骨髄腫については、2025年7月に認定NPO法人キャンサーネットジャパンから「多発性骨髄腫 よりよい選択のために 患者さんのための協働意思決定ガイド」という冊子が発刊されました。私と、立命館アジア太平洋大学の平原憲道先生が監修しました。この冊子が作成された理由として、多発性骨髄腫の治療選択肢が増え、生存期間が延長してきたことが挙げられます。それ自体は喜ばしいことですが、治療を受け続けるということは経済的な負担も大きくなることを意味します。患者さんの価値観は人それぞれで、治療を長期間続けることが必ずしも正解とは限りません。入院したほうが安心できる方もいれば、自宅で家族やペットと一緒に過ごしたいと考える人もいます。
 この冊子は、いろいろな治療法のメリット・デメリットを解説するだけでなく、自分が何を大切にしたいか、その上でこの治療を受けたいかどうかを点数をつけるようにしています。私たちは書き込みを見て、この患者さんは何を大切しているかを把握した上で治療を一緒に進めます。「この治療法は受けたくない」という意思も尊重します。患者さんと私たち医療スタッフが一緒に話し合って治療方針を決めることを「協働意思決定」といいます。
 協働意思決定は、患者さんと医療スタッフがお互いに後悔のない治療を受けるために大切だと考えています。

当センターにおける幹細胞移植および細胞療法
血液疾患の治療とチーム医療
認定NPO法人キャンサーネットジャパン 「多発性骨髄腫 よりよい選択のために 患者さんのための協働意思決定ガイド」

—— 入院中で先生たちが心がけていることは何ですか?
塚田:異なる職種が集まる「チーム医療」を大切にしています。医師や看護師だけでなく理学療法士、栄養士、心理士、薬剤師などが話し合い、この患者さんにはどのようなリハビリが必要なのか、栄養面から見てどうなのか、メンタル面で問題はないか、薬の注意点は何かなど、多面的に議論して質の高い医療を届け、良い状態で退院できるように取り組んでいます。チーム医療と協働意思決定が現在私の中で大きなテーマの一つであり、診療で強く心がけています。

血液内科  部長   塚田 信弘
血液内科 部長 塚田 信弘
Nobuhiro Tsukada
患者さんへのメッセージ
血液疾患は自分では気づきにくいので、健康診断で異常を指摘されたらすぐに受診してほしいと思います。当センターの専門領域は多発性骨髄腫とALアミロイドーシスですが、血液の病気全般を診療しており、最新の治療法も取り入れています。ぜひ気軽にご相談いただければと思います。治療においてはチーム医療と協働意思決定を大切にしており、病気を治すだけでなく、病気になる前の状態に戻れるような質の高い医療を目指しています。患者さんも私たちも同じチームの一員として病気に立ち向かっていきましょう。

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