病院情報誌 Tea Time

特集

2025年07月xx 日掲載:Tea Time93号
(2025年・夏号)

奇跡の瞬間でもあり、命がけでもある出産 ——
当センターでは、妊娠中の不安を和らげ、産後や育児もサポートします。
また、関心が増えている無痛分娩も実施しています。
安心して出産・育児ができるための当センターの取り組みを紹介します。
お話を聞いたのは、第三産婦人科の細川さつき医師、麻酔科の浅野哲医師、MFICUの佐藤梨菜さんです。

第三産婦人科 医師 細川さつき
第三産婦人科 医師
細川さつき
Satsuki Hosokawa
麻酔科 医師 浅野 哲
麻酔科 医師
浅野 哲
Tetsu Asano
MFICU 看護師 佐藤梨菜
MFICU 看護師
佐藤梨菜
Rina Sato

お産の「最後の砦」

—産婦人科の強みや特徴について教えてください。
細川:当センターは出産の支援だけでなく、合併症妊娠の方や、多胎妊娠や子宮内胎児発育遅延などさまざまなハイリスク妊娠管理にも対応しています。分娩室には夜間や休日も含めて医師が3名常駐しています。
また、当センターは2000年8月に世界保健機関(WHO)と国連児童基金(UNICEF)から「赤ちゃんにやさしい病院」の認定を受けました。これは、母乳育児に積極的に取り組んでいる体制を評価いただいたものです。私たちはさらに、「お母さんにもやさしい病院」を目指しています。家庭的な雰囲気の中で安全にリラックスできるよう配慮しています。妊産婦さんとご家族が「いいお産だった」と感じると同時に元気に育児が始まるようなお産のお手伝いをしたいと考えています。
もう一つの特徴は、東京都の母体救命対応総合周産期母子医療センター(スーパー総合周産期センター)の一つに指定されていることです。母体が急変し、命に関わる疾患が生じた場合、妊産婦さんを必ず受け入れ、治療を行う施設のことであり、多くは救急搬送されてきます。例えば、産後の大量出血や分娩進行のけいれん発作などには、他院で分娩の経過中の方が搬送されます。他にも、脳血管障害や交通事故などの救急疾患を起こした妊産婦さんの治療にあたります。東京都でのお産における「最後の砦」として位置付けられているので、産科だけでなく救急科や脳神経外科、内科、放射線科のスタッフと協力して24時間365日対応できる体制を整えています。
妊娠や出産そのものは生理的な営みの一つであって病気ではないのですが、あるとき急に危険な状態となることがあります。お産は人生における大切なイベントであることを尊重しながらも、何か起きたときにはすぐに治療を始められるよう、緊張感をもって診療にあたっています。

Baby Friendly Hospital
日本赤十字医療センター 分娩件数 推移
産科の安全・安心の体制 YouTube動画

希望するお産ができるいろいろな分娩室

—妊娠してから出産までの流れを教えてください。
佐藤:当センターを最初に受診した際に、マタニティノートをお渡ししています。その中には、妊娠中に受ける検査の種類や入院中に必要なもの、出産後の手続き、妊娠中から出産後の栄養管理など、妊娠から産後、育児をイメージしてご自身が心身共に準備をしていただくようにお伝えしています。また、LINEを利用した情報提供システムによって、妊娠週数に応じた検査や保健指導を提供しています。
経過が順調であれば、妊娠22週以降は医師と助産師が交互に妊婦健診を担当する「チーム健診」を行なっています。妊娠中のマイナートラブルや上のお子さんとの関わり方など、助産師に何でも気軽に相談していただけます。また、妊娠中に、出産に対する考え方や希望を「バースプラン」として書いてもらいます。それを医師と助産師と共有し、なるべく本人の希望するお産になるようサポートをします。
細川:バースプランを夫婦で書いてもらうことで、赤ちゃんを迎える上でどんなことを叶えたいのか、どんな想いで赤ちゃんを迎えたいのか、夫婦で話し合う機会にもなります。
チーム健診については、助産師外来で正常と異なる所見があればすぐに医師外来として対応しますし、精神的な不安が大きい場合には助産師と情報共有するなど、連携して妊婦健診にあたっているのも当センターの特徴です。

—分娩室はどうなっていますか。
佐藤:分娩室(LDR※)はリラックスできるよう、基本的には医療機器が見えないようにしています。一般分娩室は自宅のリビングルームのような内装になっていて、調光できる間接照明やダウンライトを多く使っています。他にも水中分娩室や、自由な姿勢で出産できる畳付き分娩室もあります。バースプランに合わせて部屋を選べます。希望があれば、お子さんも含めてご家族が分娩に立ち会えます。
細川:近隣の産科診療所や助産院と連携するオープン・セミオープンシステムを利用して、普段の妊婦健診は自宅近くの施設で健診を受け、妊娠後期から分娩を当センターが担当します。連携した助産院の助産師が当センターでお産を担当するオープンシステムもあります。
当センターでは分娩室に隣接して分娩手術室が2部屋あり、緊急に帝王切開手術が必要になっても5分以内に移動して15分以内に赤ちゃんを娩出できる体制になっています。同じフロアに新生児科の新生児集中治療室(NICU)もあり、赤ちゃんの状態が不安定なときにはすぐに新生児科の医師が駆けつけてくれます。こうしたことも当センターの強みです。

一般分娩室 畳付き分娩室 分娩手術室 水中分娩室
分娩室ツアー YouTube動画

気になる無痛分娩のこと

—東京都が無痛分娩の助成制度を2025年10月から始めるというニュースがありました。無痛分娩について詳しく教えてください。
浅野:無痛分娩は最近になって脚光を浴びていますが、日本では何十年も前から行われてきました。実は私も58年前に無痛分娩で生まれているんです。 無痛分娩は、薬を使って分娩時の痛みを和らげた状態で分娩することです。麻酔を使うときには、私のような麻酔科医も参加します。今回の東京都の助成対象も、麻酔による無痛分娩を受けた方となっています。無痛分娩の麻酔のほとんどは硬膜外麻酔という方法です。脊髄神経を覆っている硬膜の外側の空間を硬膜外といい、そこにカテーテルという細いチューブを使って麻酔を流し込みます。へそから足まで部分的に麻酔が効き、上半身には影響しない方法です。

—硬膜外麻酔による無痛分娩のメリットとデメリットは何ですか。
浅野:最大のメリットは鎮痛作用です。その一方で、麻酔が効きすぎて痛みがなくなると、逆にお産が進みにくくなるという特徴があります。人によって痛みに対する感覚は違うので、痛すぎず、麻酔が効きすぎずというバランスを探ることを毎回心がけています。私は男性なので分娩の痛みを完全に把握することはできないですが、例えば「一番痛いのが10点としたら今は何点ですか?」と妊婦さんに聞き、どれくらいの麻酔の量が一番いいのかを考えながら痛みの緩和を目指しています。
細川:麻酔を使うと母体の血圧が下がったり、赤ちゃんの心拍に変化が生じることがあります。麻酔を使うときは必ず産科の医師が立ち会って、お母さんと赤ちゃんの状態に変化がないかをチェックします。

—どんな人が無痛分娩を行うことが多いのですか。
浅野:心疾患や脳血管疾患などの病気がある方は、分娩時に合併症が悪化する可能性があるので、医学的な判断で無痛分娩を行う場合があります。そのほかは、多胎妊娠など産科的なリスクがなければ無痛分娩を希望できます。第1子を産んだときにとても苦しい思いをしたり、お母さんや妊婦さんのコミュニティで聞いたから詳しく知りたいなど、理由はさまざまです。

—無痛分娩を希望するときにはどうすればいいですか。
細川:まずは担当の産科医または助産師にご希望をお知らせください。当センターではマタニティクラスという、助産師によるオンライン説明会があり、その中で月に1回、硬膜外麻酔分娩のクラスがあります。当センターの産科を受診されている方は無料で参加でき、ウェブページから予約できます。妊娠後期に改めて要望を聞き、産科医が説明した上で、麻酔科医による詳しい説明があります。
浅野:麻酔科では無痛分娩についてまとめた冊子をお渡しします。約10分の説明動画を事前に見ていただき、診療で詳しい説明をしたりご質問にお答えします。そのときには麻酔による合併症の説明もします。どのような合併症があるのか、事前に知っておくことが、産婦さんの安心感につながると思っています。
細川:非常にまれですが、局所麻酔中毒や全脊髄くも膜下麻酔といった、一刻を争う合併症もあります。当センターではまだ発生したことはありませんが、産科、麻酔科医、救急科と合同でシミュレーションを行うなど、緊急時に備えています。

—他に無痛分娩で知っておくべきことはありますか。
細川:経産婦さんは計画分娩をおすすめしています。分娩誘発の反応が良いので、計画した日に出産できるのがほとんどです。一方で初産婦さんは自然陣痛が始まり、子宮口が5cmくらいに広がったタイミングで麻酔を投与することが多いです。痛みを和らげることは大事ですが、同時にお産が順調に進むことも大切です。麻酔については、24時間対応で行うようにしています。
浅野:ただ、夜間や休日など、麻酔科の対応が難しいときもあります。それも希望者には事前に説明します。
細川:麻酔科が対応できないときは、産科で対応できる筋肉注射があります。ペチジン塩酸塩・レバロルファン酒石酸塩注射液というもので、鎮痛作用やリラックス効果があります。代わりになる方法もあると聞いて安心される方も多くいらっしゃいます。

—無痛分娩の費用と、東京都の助成制度について教えてください。
細川:硬膜外麻酔は、経産婦さんが10万円、初産婦さんが15万円です。なお、初産婦さんの方の費用は今後の状況によって変わる可能性があります。筋肉注射による鎮痛は1日あたり1万円です。
 東京都の助成制度は、10月以降に出産された方で硬膜外麻酔または別の方法である脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔による無痛分娩を受けた方を対象に、最大10万円が助成されます。当センターは助成対象となる医療機関に指定されています。

硬膜外麻酔
無痛分娩(硬膜外麻酔分娩)件数

授乳や育児もしっかりケア

—産後、どのようなサポートを受けることができますか。
佐藤:産後は赤ちゃんとの生活がスタートします。その中で母乳育児の授乳サポートから育児まで、お母さんの状況に合わせて助産師がそばで見守りサポートします。必要な時にはパートナーさんの宿泊も行い、一緒に育児を行うこともできます。
細川:他院で出産された方も含めて「産後ケア入院」を利用できます。母乳育児に関する不安だけでなく、産後の体力が回復しない、赤ちゃんとの生活に慣れないなどの心配事について助産師がサポートします。

個室(MSタイプ) 個室(MLタイプ) アメニティ 個室(MAタイプ)
産後のお部屋ツアー YouTube動画

妊産婦さんへのメッセージ

妊産婦さんと赤ちゃんがもっている力を引き出しながら、当センターが大事にしている「主体的に自分らしく満足できるお産」のための支援を行っています。 当センターは産科・麻酔科・救急科とも連携し、安全な医療体制のもとフリースタイル分娩から硬膜外麻酔分娩など、さまざまな分娩に対応できます。妊産婦さんとご家族にとって満足できるお産を助産師として一緒にサポートしていきたいと思います。

MFICU
佐藤梨菜 看護師

麻酔科医としては、硬膜外麻酔をしたら終わりではなく、お産が終わるまで妊婦さんと対話を続けてどんなお手伝いができるかを常に考えています。痛いからといって麻酔を使いすぎるわけにはいかないので、しっかり説明して納得していただけるよう心がけ、満足度の高い無痛分娩を目指しています。麻酔の合併症に不安があるかもしれませんが、しっかり説明しますので、安心して受診してください。

麻酔科
浅野哲医師

麻酔科医としては、硬膜外麻酔をしたら終わりではなく、お産が終わるまで妊婦さんと対話を続けてどんなお手伝いができるかを常に考えています。痛いからといって麻酔を使いすぎるわけにはいかないので、しっかり説明して納得していただけるよう心がけ、満足度の高い無痛分娩を目指しています。麻酔の合併症に不安があるかもしれませんが、しっかり説明しますので、安心して受診してください。

第三産婦人科
細川さつき医師

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