肝硬変とは
肝硬変は慢性肝疾患において肝臓内に線維組織が増え、肝臓が硬くなる病気です。慢性肝疾患の原因にはC型肝炎やB型肝炎の肝炎ウイルス、脂肪肝、アルコール性肝障害などがあります。肝硬変には身体症状がない代償期と症状が現れる非代償期があります。非代償期になると、黄疸(白目が黄色くなる・皮膚が黄色く染まる・ウーロン茶のような色の尿が出る)や腹水・浮腫(お腹が張る、膝から下がむくむ)、食道静脈瘤の破裂(吐血)、肝性脳症(昼夜逆転・自分のいる場所が分からなくなる・尿や便の失禁)などの合併症が現れます。それぞれに対する治療ももちろん必要ですが、肝硬変にならない、非代償期に進行させないことが最も大切です。
当センターでできる検査・治療
肝硬変にみられる代表的な合併症のそれぞれにつき、当センターで可能な治療を挙げておきます。
・腹水
利尿剤投与、アルブミン製剤投与、腹水穿刺吸引、腹水ろ過濃縮再静注法(CART/カート:Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)
・食道静脈瘤
内視鏡的食道静脈瘤結紮術(EVL: Endoscopic Varices Ligation)
・肝性脳症
排便コントロール(従来法・新規下剤)、分子鎖アミノ酸(点滴・経口)、腸管滅菌(新規抗生剤)カルニチン、新規亜鉛製剤
腹水
腹水の治療は、まず水分を体の外に排出することです。利尿剤と呼ばれる尿を増やす薬を投与します。従来スピロノラクトンとフロセミドが主に使われてきましたが、近年トルバプタンと呼ばれる薬が肝硬変による腹水や浮腫の治療に用いられるようになりました。血液中の電解質に影響を与えることが少なく、飲水制限もないことから比較的安全かつ有効性の高い治療が行えると考えます。利尿剤の種類や量を調整しても腹水が減らない場合で、アルブミン低値の患者さんにはアルブミン製剤の点滴を行います。薬物でコントロールのつかない腹水に対しては腹水の溜まっている腹腔内(お腹の中の水のたまるスペース)に細い針を刺して腹水を体外に排出する腹水穿刺吸引を行います。穿刺吸引は頻回に行うと排出する腹水に含まれる栄養素も失うことになり、脱水および腎機能低下の原因になります。そのような場合は腹水を穿刺吸引した後、その腹水をフィルターに通し有害物質を除去した後に濃縮し血管に戻すという治療(CART)を行います(図1)。
図1 CART |
|
食道静脈瘤
内視鏡的食道静脈瘤結紮術(EVL)は、内視鏡を用いて膨隆した静脈瘤に小さな輪ゴムをかけ、縛ってしまうという治療です。これにより静脈瘤の血流がなくなり、静脈瘤が消失します。治療日と翌日は食事ができません。翌々日から柔らかい食事を始め、治療後1週間で内視鏡を再度行い、静脈瘤の状態を確認するので、順調にいって10日間程度の入院を要します。図2
図2 EVL |
図3 EVLの実際の様子 |
|
|
肝性脳症
肝性脳症では肝臓で分解されるべきアンモニアが肝機能の低下で十分に分解されず、脳に回ったり、アミノ酸のバランスが崩れたりして、脳の症状が起こります。昼夜逆転や自分がどこにいるかわからなくなったり、会話のつじつまが合わなくなったりします。進行すると昏睡状態になります。脳症は症状が出現する引き金となる事柄がわかっており、これらを避けることによってある程度予防できます。引き金となるのは便秘・脱水・蛋白過剰摂取・感染・消化管出血などです。下剤を用いて排便コントロールを行ったり、腸の中のアンモニアを発生する菌を抗生物質によって抑えたり、アミノ酸バランスの崩れを補正する薬を使ったりします。
当センターでの実績
新規利尿剤トルバプタンの投与:57例
CART治療:3例
内視鏡的食道静脈瘤結紮術(EVR):24例