骨髄腫について
多くの皆さんが抗体という言葉は聞いたことがあると思いますが、体内に侵入してきたウイルスや細菌と戦ってくれるタンパク質で、骨髄の中に存在する形質細胞が産生しています。形質細胞はBリンパ球の最終分化段階の細胞であり、この形質細胞ががん化した病気が多発性骨髄腫です。形質細胞ですから免疫グロブリン(IgG、IgA、IgD)を産生したり、免疫グロブリンの一部である軽鎖(κ:カッパまたはλ:ラムダ)を産生しておりますので、この値が低下すると治療効果があると判定できます。この腫瘍が産生している異常な免疫グロブリンや軽鎖をM蛋白と呼びます。また、多発性骨髄腫は同じような経過で進行するわけではなく、非常に進行が速いものから比較的ゆっくりと進行するタイプまで、患者ごとに進行様式が異なることが特徴の一つです。さらに、多発性骨髄腫という血液悪性腫瘍と診断される前に、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(Monoclonal gammopathy of undetermined significance : MGUS)やくすぶり型骨髄腫(Smoldering multiple myeloma : SMM)と診断され、経過観察中に多発性骨髄腫に進展することもあります。現在のガイドラインでは、MGUSやSMMの段階では治療は開始しないで、経過観察することになっております。多発性骨髄腫の診断基準を満たしてから治療を開始します。
骨髄腫の症状
多発性骨髄腫の患者さんの症状として高カルシウム血症(C)、腎機能障害(R)、貧血(A)、骨病変(B)があり、これらをまとめてCRABと呼んでいます。MGUSやSMMと診断され治療をしないで様子を見ていた場合、治療する前に骨折や腎不全を発症することがあり、最近はもう少し早く治療を開始することを推奨するガイドラインが作成され、骨髄の形質細胞比率が60%以上(S)、血清の軽鎖の比(腫瘍が産生する軽鎖の量/非腫瘍性の軽鎖の量)が100以上(Li)、MRI(核磁気共鳴画像法)検査で5mm以上の骨病変が2か所以上存在する場合(M)のどれかがある場合には治療開始が推奨されました。上記の基準をまとめて、SLiM-CRABと呼び、これらを認めた場合は治療が検討されます。
最も多い自覚症状は、骨折や溶骨性病変による骨痛です。骨折で最も多いものは頚椎・胸椎・腰椎がつぶれてしまう圧迫骨折で、腰痛・背部痛が最も多い症状です。これは、骨髄腫では骨を溶かす破骨細胞の活動が活発になっており骨を溶かしますが、骨を作る骨芽細胞が抑制されているためです。腎障害は骨髄腫が産生するM蛋白の一部が腎臓の尿細管を閉塞させてしますためで、診断時に透析が必要になる患者さんもおります。他に、骨が溶かされるために高カルシム血症を発症したり、骨髄で骨髄腫細胞が増殖するために貧血になったりします。
骨髄腫のリスクが高い患者さん
日常生活に関連することで、骨髄腫になりやすいリスクは報告されておりません。MGUSと診断された患者さんは1年に1%が骨髄腫に進展し、SMMと診断された患者さんは5年間で50%が骨髄腫に進展すると報告されております。SMMやMGUSと診断された患者さんは、定期的に検査を行い、骨髄腫の診断基準であるSLiM-CRABを満たしたときに、治療を開始することになります。MGUSやSMMでは症状がないため、経過観察中に自己判断で通院を中断する患者さんもいます。このような患者さんで、数年後に圧迫骨折を起こして受診される人もいらっしゃいます。
予防と検診
先ほど述べましたように、日常生活に関連することで骨髄腫になりやすいリスクは報告されておりませんので、予防法も報告されておりません。しかし、MGUSやSMMと診断された患者さんは、将来骨髄腫になる可能性が高いので、骨折を起こさないために重いものを持つことは控えたり、1日1500ml以上の水分を摂取していただき、腎臓を保護していただいております。
早期診断には検診が役立ちます。IgG、IgA、IgDなどの免疫グロブリンは血液検査の総蛋白に含まれますので、検診の血液検査で総蛋白が増加して紹介され、骨髄腫と診断された患者さんもいます。また、免疫グロブリンの一部である軽鎖(κまたはλ)しか産生しない骨髄腫の患者さんが15%程度存在し、軽鎖はすぐに腎臓から排泄されるため、総蛋白は上昇しません。このタイプの患者さんは尿蛋白陽性と診断されますので、尿たんぱくが軽鎖なのかアルブミンなのか精査する必要があります。貧血や高カルシウム血症も検診の血液検査で見つかり、骨髄腫の早期発見につながることもあります。1年に1回は健康診断を受けることが重要と考えます。
また脊椎の圧迫骨折は他の疾患で発症することも多く、M蛋白の精査がされないこともありますので、M蛋白の精査をしてもらうことが重要です。