胃がんの治療法
胃がんの治療は、手術・内視鏡的治療・化学療法(抗がん剤)の3つが中心となり、治療法は病期に基づいて決まります。一般に、ステージ1のうちリンパ節転移している可能性がほとんどない場合に内視鏡的治療が選択され、その他のステージ1とステージ2、3は手術が選択されます。ステージ4では化学療法が治療の中心となります。ただ、患者さんの全身状態、胃がんの進行状態を考慮して、別の治療法を選択したり、あるいは2つ以上の治療法を組み合わせたりすることもあります。
①内視鏡的治療
内視鏡診断・技術の進歩に伴い近年上部消化管内視鏡検査で早期に胃がん病変が見つかる機会が増えています。リンパ節転移の可能性がほとんどないと考えられる病変に対しては内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という方法で内視鏡を用いて胃の内側からアプローチすることで局所的に病変を切除し、根治させることが可能です。外科手術と比べて体の負担が少なく(低侵襲)、胃を温存することができ(機能温存可能であり)、治療後のQOLが保たれるという大きなメリットがあり既に広く普及している治療です。例えば併存疾患を有する高齢者に対しても概ね安全に治療することが可能です。
②手術
手術では、がん自体を切除するとともに転移する可能性のあるリンパ節も切除することが重要です。そのため、胃がんの部分だけ切除するという手術は現在ほとんど行われていません。胃がんの部位や深さによって胃の切除範囲、リンパ節の切除範囲が決まってきます。胃がんの術式は胃を全部切除するか(胃全摘術)、一部残すか(幽門側胃切除術、噴門側胃切除術)に分けられます。胃全摘術の場合、食道と小腸をつないで(吻合(ふんごう))食べ物の通り道を確保します。食道とつないでも、小腸が胃のように太くなるということはありません。ただ、胃がない状態に順応してきて、ある程度までは食事をとれるようになります。
腹腔鏡手術が近年増えています。腹腔鏡手術とは、お腹に数か所1cmほどの小さい穴をあけてその穴よりカメラや器具を入れて行う手術のことを指します。患者さんの体の負担が少ないといわれています。胃がんに対する腹腔鏡手術は、現在早期の胃がんに限って行うことが推奨されています。
③化学療法
現在、胃がんでは目的により、様々な薬を単独または組み合わせて使います。細胞障害性抗がん剤、分子標的薬そして免疫チェックポイント阻害薬が挙げられます。
【薬剤】
■1)細胞障害性抗がん剤
細胞が増殖する過程に影響を及ぼしがん細胞を攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けます。胃がんの治療では、内服薬としてティーエスワン®、カペシタビンやロンサーフ®が注射として5-FU、シスプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、アブラキサン®、イリノテカンが使われます。
■2)分子標的薬
がん細胞の表面にあるたんぱく質やがんの遺伝子をターゲットとして効率よく攻撃する薬です。胃がんでは、HER2と呼ばれるタンパク質ががん細胞の増殖に関わっている場合、HER2タンパク質の働きを抑えるハーセプチン®と細胞障害性抗がん剤を併用して使います。また、がん細胞に栄養を供給している血管を阻害するラムシルマブを使う場合もあります。
■3)免疫チェックポイント阻害薬
がん細胞によるリンパ球などのブレーキを解除することにより、体内にもともとある免疫細胞の活性化させる薬です。ニボルマブが使われます。
【目的】
■1)進行・再発胃がんに対する薬物療法(目的:命を延ばすこと)
進行または再発し、手術によりがんを取りきることが難しい場合に行われ、目的は延命です。
薬物療法により、がんによる症状を和らげたりすることもあります。患者さんのがんの状況、化学療法に伴う想定される副作用、点滴の必要性、入院の必要性や通院頻度などについて患者さんで話し合って、どのような薬を使うかを決めていきます(シェアード・デシジョン・メイキング(SDM:Shared decision making))。
薬物療法にはいくつかの段階があり、まずは一次化学療法から始め、効果が低下した場合や副作用が強く継続が難しい場合には二次、三次と治療を続けていきます(下図)。
■2)手術後の補助化学療法(目的:治すこと)
たとえ手術でがんを切除できたとしても、目に見えないごく小さなながんが残っていて、再発することがあります。こうした小さながんを根治する目的で行われる化学療法を術後補助化学療法です。胃がんの場合、TS-1のみあるいはほかの殺細胞性抗がん剤とともに使う方法を検討します。
胃がんの治療別実績(2019年度)
①胃がん内視鏡治療:41件
②胃がん手術:
幽門側胃切除術 31件(そのうち腹腔鏡下幽門側胃切除術:12件)
噴門側胃切除術 5件(そのうち腹腔鏡下噴門側胃切除術:1件)
胃全摘術 12件