がんの遺伝子変化は、患者さん一人ひとり違うため、それぞれの患者さんの遺伝子変化を詳細に調べて、個々の患者さんの遺伝子変化にぴったりと合った薬物療法を行うことが大切です。これをいわゆる『がんゲノム医療』もしくは『Precision Medicine(プレシジョン・メディスン)』といいます。がんゲノム通信1号もご参照ください。
これまでは、個々の患者さんのがんの種類に応じて、遺伝子変化を一つ一つ別の検査で調べていました。そのため、すべての遺伝子変化を検査するには、多くの検体量と時間が必要でした。さらに、近年の急速な医学の進歩により、がんの原因となる遺伝子変化が次々と見つかり、非常に多くの遺伝子変化を調べる必要が出てきました。
これを解決するため開発されたのが、『遺伝子パネル検査』です。これは多く(数十~数百)のがん関連遺伝子を1回の検査で一気に調べる画期的な検査方法です。この遺伝子パネル検査を行う医療機器のことを『NGS(次世代シークエンサー)』といいます。
遺伝子パネル検査は有用な検査ですが、非常に高額であるため、最近まで研究として行われてきました。しかし2019年から日本でも保険診療として遺伝子パネル検査が行えるようになりました。遺伝子パネル検査の行える病院は2020年4月時点で、がんゲノム医療を牽引し臨床試験や治験を担う全国12カ所の「がんゲノム医療中核拠点病院」、がんゲノム医療中核拠点病院と連携し治療にあたる161カ所の「がんゲノム医療連携病院」、中核拠点病院と連携病院の間に位置づけられ単独で治療方針の決定ができる33カ所の「がんゲノム医療拠点病院」があります。しかし保険診療での遺伝子パネル検査は、標準的な治療が終了した患者さんや標準治療のない希少がんのみを対象としている点に注意が必要です。
また日本では、以前より国立がん研究センター東病院を中心として、日本人の肺がん患者さんの遺伝子異常を大規模にスクリーニングするというプロジェクトが行なわれています。このプロジェクトで患者さんは血液を含む遺伝子パネル検査が無償で行え、何らかの稀少がん遺伝子が見つかった場合、治験に参加することもでき治療選択肢が広がる可能性もあります。我々はこれまで積極的にこのプロジェクトに参加し、患者さんの治療選択肢を広げる努力をしてまいりました。がんゲノム通信2号もご参照ください。