扱う疾患
多発性骨髄腫
多発性骨髄腫罹患患者数
高齢者に多く発症するとされている多発性骨髄腫は近年の高齢化に伴い罹患数は増加傾向にあります。
(図1)
多発性骨髄腫の特徴
多発性骨髄腫は,形質細胞の単クローン性増殖と,その産物である単クローン性免疫グロブリン(M 蛋白)の血清・尿中増加により特徴づけられる疾患です。
CRABと称される臓器障害で、高カルシウム血症,腎不全,貧血,骨病変が生じている場合、化学療法の対象となります。
治療法の選択
現在の治療法では主にボルテゾミブやサリドマイド、レナリドミドといった新規薬剤を用いた治療が行われています。またメルファランとプレドニゾロンも化学療法の際によく使われています。治験が行われている開発中の治験薬も条件に合わせて積極的に使用していきます。開発中の新しい薬剤により全生存期間をさらに延ばし治癒を目指しています。(※図2参照)
これらの抗がん剤の中から、患者さんの年齢や全身状態、病気の進行状況などに応じて最適な薬を選び、投与しています。自家末梢血幹細胞移植は大量の化学療法と併せて行う必要があるので、患者さんが原則70歳以下で、大きな臓器障害がなく、ADL(日常生活動作)が自立している場合に限って行われます。自家末梢血幹細胞移植に加え、他人からの造血幹細胞移植に踏み切ることもあります。自家末梢血幹細胞移植をすれば延命は可能ですが、治ることは現状では見込み薄です。私たちは分子生物学的寛解を指標にして、あくまでも"治癒"を目指し、最善を尽くします。
このほか、いろいろなタイプの(図3参照)骨髄腫があり、骨病変に対する薬物療法も行います。以上の治療によって85%の患者さんの症状が改善します。しかし今のところ、がん化した骨髄腫細胞を根絶できる治療法はなく、しばらくすると再発を繰り返すことになります。そこで当センターでは現在、再発を防ぐための維持療法(ボルテゾミブ+サリドマイド療法やレナリドマイド療法)やNKT免疫細胞療法、自己ガンマ・デルタT細胞療法について研究しています。
(図2)
【骨髄腫細胞のギムザ染色標本】
(図3)
ALアミロイドーシス
線維構造をもつ蛋白質であるアミロイドが、全身臓器に沈着することによって機能障害を引き起こす一連の疾患群です。骨髄で発生した異常な血液細胞がアミロイドというたんぱく質を作り出し、全身の臓器に沈着してさまざまな障害を引き起こす病気です。
自覚症状としては「足がむくむ」「舌の側面に歯型が残る」「味覚が落ちた」「手首がしびれる」「まぶたに出血したような斑点が出る」などが挙げられます。
血液がんとALアミロイドーシスの治療の考え方は同じで、「化学療法」と「造血幹細胞移植」が基本です。化学療法は、大量の抗がん剤を使ってがん細胞の増殖を抑えたり、がん細胞を破壊したりする治療法です。造血幹細胞移植は、患者さん本人や提供者(ドナー)から採取した造血幹細胞を点滴で体内に入れ、正常な血液を作れるようにする治療です。当センターは、クリーンルーム仕様の専門病棟や個室病棟を備え、白血病やリンパ腫の化学療法、造血幹細胞移植、多発性骨髄腫やALアミロイドーシスの自家末梢血幹細胞移植などの先進医療に取り組んでいます。
ここ数十年の間に病気の発症や進行する仕組みが遺伝子レベルで分かるようになり、病気に即した分子標的薬(がん細胞が持つ特定の分子を標的にして狙い打ちする薬)が数多く開発され、移植技術も進歩しました。そのため、かつては"不治の病"といわれていた白血病も、早期に適切な治療を行えば3~4割の患者さんが治りますし、悪性リンパ腫では5~6割の患者さんが治ります。多発性骨髄腫とALアミロイドーシスはまだ治せるところまでいっていませんが、10年以上の生存が可能になってきています。
当センターでは、世界各地で同時に行われる「グローバル治験」にも多数参加しています。治験は、最新の薬を世に生み出す前に行われる臨床試験で、それによって将来の治療の方向性が決まります。治療に有効な薬ばかりですから、これらを組み合わせれば、今はまだ治らない病気でも、近い将来は治る可能性が出てくるかもしれません。
化学療法で用いる抗がん剤はメルファランとデキサメタゾンの2種類で、それぞれの英語の頭文字を取ってMD療法と呼ばれています。移植を行わない患者さんはMD療法を継続します。治療を続けるうちに異常なたんぱく質が消え、臓器の機能が改善していきます。
【失神発作を繰り返し、MD療法12回にて通常勤務可能になった心臓アミロイドーシス症例の心エコー図の3年後の変化】
悪性リンパ腫
リンパ腫もしくは悪性リンパ腫と伝えられたとき、多くの方がどんな病気かわからず、不安に感じることでしょう。身の回りでよく、“リンパの流れをよくする”“リンパが腫れた”などの言葉を耳にすることがありますが、リンパの実態はリンパ球という白血球の一種で免疫細胞です。リンパ腫は、本来体にとって大切なリンパ球が性格を変えてしまう病気、腫瘍化すなわちがん化した病気です。がんとは言っても、リンパ腫は肺がんや胃がんのような固形がんとはかなり異なるものであることを、まず理解頂きたいと思います。
その理由として、1つは、一言でリンパ腫といっても実に数十のタイプがあり、それぞれのタイプは細胞の性格や経過、ひいては治療方針が全く異なってくるということです。ですから、リンパ腫の中のどのタイプであるか、正確な診断をつけることは非常に重要です。
もう1つの理由として、リンパ腫は治療がよく効きます。リンパ腫の治療は、主に抗がん剤を使った化学療法となります。初めて抗がん剤投与を受けるのは誰もが緊張すると思いますが、1週間もたたないうちに、腫れていたリンパが日に日に小さくなっていくのを感じることができるでしょう。多くのリンパ腫の治療期間は半年くらいに及びますが、最初の1コースで腫瘍がどれくらい小さくなるか、一例として図1をお示しします。
リンパ腫と言われたら…
リンパは全身にありますので、病変は全身どこにでもできる可能性があります。リンパの広がりを正確に診断するため、血液検査、CT、PET、骨髄検査、場合によっては胃カメラや大腸カメラを受けて頂くこともあります。生検によって最終組織診断がついたら、治療計画を立てます。CHOP療法と呼ばれる化学療法が第1選択となることが多いですが、リンパ腫のタイプによってはこれとは異なる化学療法が行われることもあり、また初期の場合は放射線で治療されることもあります。時に複数の治療選択肢が存在することもあります。リンパ腫治療の一例を図2にお示しします。複雑に思われるかもしれませんが、全てはリンパ腫の性格を考えた上で、患者さんが最もメリットを得られるように決められています。
どのタイプのリンパ腫であるのか、どのような治療になるのか。ここからリンパ腫の治療が始まります。私たちは、患者さんがご自身の病気を理解し、ベストな治療を受けるお手伝いをします。1年後は笑って過ごせることを目標に、頑張りましょう。(吉識)
慢性骨髄性白血病
多能性造血幹細胞の異常により惹起される白血病で染色体異常により生じるBCR-ABLチロシンキナーゼが恒常的に活性化し、白血病細胞の増殖に関与し、3つの病期を経て進行していく。
白血球や血小板の増加を認めるが自覚症状の乏しい慢性期,顆粒球の分化異常が進行する移行期,未分化な芽球が増加して急性白血病に類似する急性転化期(blast phase:BP,約3~6 カ月)へ進展する。
BCR-ABLチロシンキナーゼを特異的に阻害するイマチニブの出現により、治療法が一変した歴史を持ちます。適切な治療を行うことで長期生存を可能にします。
急性骨髄性白血病
急性骨髄性白血病は化学療法のみでもある程度の確率で治癒が期待できる疾患であり、造血幹細胞移植の導入によりその治療成績はさらに向上しています。高齢者や重大な併存疾患を有する症例を除き、原則として治癒を目標とした治療を行います。
骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes: MDS)は聞きなれない名前ですが、高齢者に多い病気です。ある日突然発症するわけではなく、加齢、環境因子、生活習慣などによって徐々に造血幹細胞の遺伝子に蓄積していって発症するとされ、造血機能の「衰え」とも言える病気です。しかし、その詳細な発病メカニズムは未だ不明で、自覚症状に乏しく偶然発見されることが多いです。
名前の由来は、異常な形の白血球、血小板、赤血球などが作られることから、この病名がついています。しかし、MDSは多様な病気の集まり(症候群)であり、再生不良性貧血と呼ばれるような造血機能が低下する病気に近いものから、白血病に近いものまであります。また、中には形態異常を確認することが困難な方や、他の病気から移行するかた(2次性のMDS)もいらっしゃり、非常に多様性に富んでいます。
したがって、治療の必要性は病状によって様々です。そこで、どのくらいすぐに治療しなければいけないかを判断するために、検査に基づきスコア化し、これに個人の特別の状態を加味して治療方針を決定することが多いです。その結果、治療を受けずに経過観察だけで問題なく年余に渡って暮らせる方もいます。一方で、白血病発症の前がん状態であったり、既に白血病に進行している場合もあり、速やかな抗がん剤治療が必要な方もいます。また、内服抗がん剤治療(レブラミド療法)や、免疫抑制薬が良く効くタイプである場合もあります。最近では、抗がん剤治療に進歩が見られ、身体的な負担を軽減した治療法(アザシチジン療法)も行われ、御高齢の患者さんでも安心して治療を受けられます。
しかし、これらの治療法は病気の進行を止めることはできても根治することは難しいと考えられており、根治には現在のところ造血幹細胞移植が唯一の治療法です。しかし、患者さんの多くは高齢者のため、移植治療を受けられる方は限られています。また、移植にはリスクがあるとともに準備に時間がかかります。現在では、移植を受けられる患者さんを増やす試みがなされています。
もし、病気が進行してしまった場合には、たびたび輸血が必要になったり、感染症に罹患しやすくなったり、発熱を繰り返すこともあります。このため、入院治療が必要な場合もあります。このように、患者さんが現在どのような状況にあり、どのような治療法が適切なのかきちんと判断する必要があります。詳しくは担当医までご相談ください。(飯塚)
再生不良性貧血
末梢血でのすべての血球の減少(汎血球減少)と骨髄の細胞密度の低下(低形成)を特徴とする一つの症候群です。重症度によって予後や治療方針が大きく異なるため、血球減少の程度によって重症度を判定する必要があります。
特発性血小板減少性紫斑病
血小板減少を来たす他の明らかな病気や薬剤の服薬がなく血小板数が減少し、出血しやすくなる病気です。