扱う疾患
多発性骨髄腫
多発性骨髄腫罹患患者数
高齢者に多く発症するとされている多発性骨髄腫は近年の高齢化に伴い罹患数は増加傾向にあります。
多発性骨髄腫の特徴
多発性骨髄腫は,形質細胞の単クローン性増殖と,その産物である単クローン性免疫グロブリン(M 蛋白)の血清・尿中増加により特徴づけられる疾患です。
CRABと称される臓器障害で、高カルシウム血症,腎不全,貧血,骨病変が生じている場合、化学療法の対象となります。
治療法の選択
CRABと称される臓器障害(高カルシウム血症,腎不全,貧血,骨病変)が生じている場合に化学療法の対象となります。かつてはCRAB症状が現れるまでは治療を行わないことが一般的でしたが、有効な治療法が増えてきたこともあり骨髄中の形質細胞が60%以上であったり、血清遊離軽鎖(FLC)の比が100以上であったり、MRIで2箇所以上の病変を認める場合には治療を開始することが一般的となってきました。
治療薬の主体はプロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38モノクローナル抗体およびデキサメタゾンであり、2025年からはこれらの薬剤を初発の多発性骨髄腫の患者さんに使用することが保険承認されました。これからは4剤併用療法(Isa-VRd, Dara-VRd)が主流になっていくと思われます。
65歳未満で主要な臓器の障害を有しない患者さんに対して、自家末梢血幹細胞移植を行うことで長期の奏効が期待できます。また移植後に地固め療法や維持療法を行うことも多くなっています。骨髄検査で500万個の細胞を調べて異常な形質細胞が10~100万分の1未満に到達した場合、微小残存病変(MRD)陰性と判定します。当センターのデータでは自家末梢血幹細胞移植とその後の治療によってMRD陰性に到達した患者さんの5年無増悪生存率は約80%となっています。
万が一再発してしまった際の治療選択肢も増えています。一般的にはこれまで使ったことのない薬剤を使用した治療を行いますが、前述のプロテアソーム阻害薬、免疫調節薬および抗CD38抗体の3つのクラスの薬剤を既に使用している場合にはBCMA(B細胞成熟抗原)を標的とした二重特異性抗体が適応となります。また3つのクラスの薬剤の使用歴があり、かつ過去に2回以上の再発を経験している場合にはCAR-T細胞療法(別項を参照)の適応となります。CAR-T細胞療法は有効な治療選択肢となりますが、適応となる患者さんが限られることからこの治療を希望される場合には担当医とよく相談して下さい。セカンドオピニオンについても常時受け付けています。
ALアミロイドーシス
線維構造をもつ蛋白質であるアミロイドが、全身臓器に沈着することによって機能障害を引き起こす一連の疾患群です。骨髄中の異常な形質細胞が産生する遊離軽鎖(FLC)が折りたたみの異常によってアミロイドというたんぱく質となって全身の臓器に沈着してさまざまな障害を引き起こす病気です。 自覚症状としては「足がむくむ」「舌の側面に歯型が残る」「味覚が落ちた」「手首がしびれる」「まぶたに出血したような斑点が出る」などが挙げられます。
ALアミロイドーシスの治療の基本はFLCを産生する形質細胞を減少させることであり、従来はメルファランという内服の抗がん剤とデキサメタゾンの点滴による治療(MD療法)が主流で、可能な患者さんに自家末梢血幹細胞移植が行われてきました。2021年にALアミロイドーシスに対する治療としてダラツムマブ、シクロホスファミド、ボルテゾミブおよびデキサメタゾン(D-CyBorD)療法が承認され、現在はこの治療が主流となっています。自家末梢血幹細胞移植は脱毛や一時的な感染症のリスクなどから、対象となる患者さんは以前より少なくなっています。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫とは、本来体にとって大切なリンパ球が性格を変えてしまう病気、腫瘍化すなわちがん化した病気です。がんとは言っても、リンパ腫は肺がんや胃がんのような固形がんとはかなり異なるものであることを、まず理解頂きたいと思います。 悪性リンパ腫といっても実に数十のタイプがあり、それぞれのタイプは細胞の性格や経過、ひいては治療方針が全く異なってきます。ですから、悪性リンパ腫の中のどのタイプであるか、正確な診断をつけることは非常に重要です。
悪性リンパ腫は大きくホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分けられますが、本邦では90%以上が非ホジキンリンパ腫です。リンパ組織は全身に分布していることから、病変は全身どこにでもできる可能性があります。リンパの広がりを正確に診断するため、血液検査、CT、PET-CT、骨髄検査、場合によっては内視鏡検査を受けて頂くこともあります。生検によって最終組織診断がついたら、治療計画を立てます。R-CHOP療法と呼ばれる化学療法が第1選択となることが多いですが、リンパ腫のタイプによってはこれとは異なる化学療法が行われることもあり、また初期の場合は放射線で治療されることもあります。時に複数の治療選択肢が存在することもあります。
万が一再発してしまった際は、以前は自家末梢血幹細胞移植が行われていましたが、現在ではCAR-T細胞療法が行われることが多くなっています(当センターでは悪性リンパ腫に対するCAR-T細胞療法は行っていないため他の施設をご紹介しています)。
慢性骨髄性白血病
多能性造血幹細胞という血液の元になる細胞の異常により惹起される白血病で、染色体異常により生じるBCR-ABLチロシンキナーゼが恒常的に活性化し、白血病細胞の増殖に関与し、3つの病期を経て進行していく病気です。
白血球や血小板の増加を認めるが自覚症状の乏しい慢性期,顆粒球の分化異常が進行する移行期,未分化な芽球が増加して急性白血病に類似する急性転化期(blast phase:BP,約3~6 カ月)へ進展していきます。
病気の原因となるBCR-ABLチロシンキナーゼを特異的に阻害するチロシンキナーゼ阻害薬の出現により、治療成績が劇的に改善し、以前は同種造血幹細胞移植を必要としていた疾患ですが、現在はほとんど内服のみで長期生存が可能となり、一部の患者では治療を中止しても再発しない=治癒につながる患者さんも報告されています。さらに近年ではABLミリストイルポケット結合型阻害剤という新しい薬剤も登場し、治療選択肢がさらに増えています。
急性骨髄性白血病
急性骨髄性/リンパ性白血病は化学療法のみでもある一定の確率で治癒が期待できる疾患です。この病気には様々な遺伝子異常が関与することが知られており、その遺伝子異常によって疾患の悪性度が特徴づけられています。そのためにこれらの遺伝子異常に基づいて、疾患の予後予測を行い、必要な患者さんには造血幹細胞移植を行うことでその治療成績はさらに向上しています。また急性リンパ性白血病は以前は非常に予後不良とされていましたが、小児型の抗がん剤治療の導入や一部の症例(フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病)ではチロシンキナーゼ阻害薬の登場で治療成績は大きく改善しています。高齢者や重大な併存疾患を有する症例を除き、原則として治癒を目標とした治療を行います。
骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes: MDS)は聞きなれない名前ですが、高齢者に多い病気です。ある日突然発症するわけではなく、加齢、環境因子、生活習慣などによって徐々に造血幹細胞の遺伝子に蓄積していって発症するとされ、造血機能の「衰え」とも言える病気です。しかし、その詳細な発病メカニズムは未だ不明で、自覚症状に乏しく偶然発見されることが多いです。
名前の由来は、異常な形の白血球、血小板、赤血球などが作られることから、この病名がついています。しかし、MDSは多様な病気の集まり(症候群)であり、再生不良性貧血と呼ばれるような造血機能が低下する病気に近いものから、白血病に近いものまであります。また、中には形態異常を確認することが困難な方や、他の病気から移行するかた(2次性のMDS)もいらっしゃり、非常に多様性に富んでいます。
したがって、治療の必要性は病状によって様々です。そこで、どのくらいすぐに治療しなければいけないかを判断するために、検査に基づきスコア化し、これに個人の特別の状態を加味して治療方針を決定することが多いです。その結果、治療を受けずに経過観察だけで問題なく年余に渡って暮らせる方もいます。一方で、白血病発症の前がん状態であったり、既に白血病に進行している場合もあり、速やかな抗がん剤治療が必要な方もいます。また、内服抗がん剤治療(レブラミド療法)や、免疫抑制薬が良く効くタイプである場合もあります。最近では、抗がん剤治療に進歩が見られ、身体的な負担を軽減した治療法(アザシチジン療法)も行われ、高齢の患者さんでも安心して治療を受けられます。
しかし、これらの治療法は病気の進行を止めることはできても根治することは難しいと考えられており、根治には現在のところ造血幹細胞移植が唯一の治療法です。しかし、患者さんの多くは高齢者のため、移植治療を受けられる方は限られています。また、移植にはリスクがあるとともに準備に時間がかかります。現在では、移植を受けられる患者さんを増やす試みがなされています。
もし、病気が進行してしまった場合には、たびたび輸血が必要になったり、感染症に罹患しやすくなったり、発熱を繰り返すこともあります。このため、入院治療が必要な場合もあります。このように、患者さんが現在どのような状況にあり、どのような治療法が適切なのかきちんと判断する必要があります。
再生不良性貧血
末梢血でのすべての血球の減少(汎血球減少)と骨髄の細胞密度の低下(低形成)を特徴とする一つの症候群です。重症度によって予後や治療方針が大きく異なるため、血球減少の程度によって重症度を判定する必要があります。 重症度や年齢によって、若年者の場合では同種造血幹細胞移植も適応となることもあります。免疫抑制剤や抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン、トロンボポエチン受容体作動薬、顆粒球コロニー刺激因子などの複数の薬剤を用いながら治療を行います。初めは入院を必要とすることもありますが、外来治療でも管理が可能な疾患となります。
免疫性血小板減少症
特発性血小板減少性紫斑病とも呼ばれています。血小板減少を来たす他の明らかな病気や薬剤の服薬がなく血小板数が減少し、出血しやすくなる病気です。治療法としては一部の患者さんではピロリ菌が関与していることが知られていて、ピロリ菌の除菌のみで改善する方もいます。そのほかは副腎皮質ステロイドやトロンボポエチン受容体作動薬をはじめとして、リツキシマブ、脾臓チロシンキナーゼ阻害薬などの複数の治療薬があります。治療の奏効(血小板数の改善)や副作用のバランスなどを見ながら、適宜治療法を選択していきます。緊急で止血が必要な場合には大量免疫グロブリン療法なども行うことがあります。