骨髄腫アミロイドーシスセンター

骨髄腫アミロイド―シスセンター長

石田 禎夫(いしだ ただお)

ごあいさつ

2016年に骨髄腫アミロイドーシスセンターが誕生し、初代センター長の鈴木憲史先生のご活躍のおかげで、医師、看護師、薬剤師、治験コーディネーター、臨床工学技士等のスタッフが力を合わせ、病気の克服に取り組むシステムが構築されました。
当センターでは標準化学療法、自家末梢血幹細胞移植、同種移植の他にも多くの臨床治験が行われております。特にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法や、二重特性抗体などの免疫細胞療法の多くの治験が行われており、有効性が報告されております。ALアミロイドーシスに関しても新薬の開発により予後改善が期待されております。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

2021年4月1日
骨髄腫アミロイドーシスセンター長
石田 禎夫

 この10年で、多発性骨髄腫の治療は大きく変化しました。新たなプロテアソーム阻害剤や免疫調節薬、抗体薬などの新規薬剤の試験が進行しており、目覚ましく進化している領域です。治療効果判定法にも変化が生じ、stringent CRは通過点であり、stringent CRよりさらに深いレベルまで骨髄腫細胞を減らした微小残存病変(MRD)陰性の状態を目指した治療を検討する時代に至っています。MRD測定法としてはMFC・NGSなどがありますが、骨髄腫病巣の不均一性から、全身MRI やPET -CT 等の画像も含めた総合診断が必要です。特に若年者では開発中の薬剤を上手に組み合わせた併用療法を行うことでMRD陰性を目指し、多発性骨髄腫を“延命”から“治癒”へと変えていくことが目標となります。




​ 70歳までの元気な骨髄腫患者に対しては自家末梢血幹細胞移植を含めた初期治療で、サブクローンをも考慮した徹底治療を行うべきです。多発性骨髄腫の治療戦略はアメリカンフットボール的な多面的な戦い方を要します。当ページでは、治癒を目指したアプローチについて最新の見地を紹介します。
 治癒を目指すには、until PDまでのcontinous therapyではなく、治療期間を定めて強力な治療を初期治療から行ってdrug freeな期間を作り、費用対効果を考慮した治療を確立することが重要です。2015年に行われたアメリカのオバマ大統領による演説で、「Precision Medicine」という言葉が使用されました。これは、個人の遺伝子情報などを含む詳細な情報を基に行われる精密医療のことであり、SKY92-ISSやMFC、NGS、リキットバイオプシーなどの技術が含まれています。これらの技術を上手に使用し、治療の層別化を行うことで医療経済も意識した治療方針の決定が必要です。




多発性骨髄腫に用いられる医薬品とその管理について

 多発性骨髄腫の治療に用いられるサリドマイド並びに類似の構造を有するレナリドミド及びポマリドミド(以下 サリドマイド類)は強い催奇形性を有することから、胎児への薬剤曝露防止を目的とした厳格な管理手順(「サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS)」及び「レブラミド・ポマリスト適正管理手順(RevMate)」)を適正に遵守することを承認条件として、多発性骨髄腫等を効能・効果として製造販売承認されています。
 「サリドマイド及びレナリドミドの安全管理に関する検討会」においてとりまとめられた報告書には、「医療関係者に対する教育」として、患者への遵守状況の確認と説明を医療現場に委ねるにあたっては、患者・医療関係者間のコミュニケーションの質と量が保たれる必要があり、そのために企業による安全管理手順の実施状況のモニタリングのほか、医療関係者に対する教育の充実、強化をはかることも重要である、とあります。サリドマイド類薬剤の厳格な適正管理手順の遵守とともに、性交渉や避妊等のセンシティブな内容に関する患者・医療者への教育が必要であるとされています。
 厚生労働省医薬安全対策課からの委託により、平成28-30年度にかけて国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究班は、研究課題「患者に対してセンシティブな内容(性交渉や避妊等)を説明する医療従事者向け教育プログラムの策定に関する研究」を進めました。最終年度には教育用DVDと解説冊子を作成し、配布に至っています。

 

アミロイドーシスについて

 アミロイドの蓄積には、アミロイド前駆蛋白の産生、プロセッシング(前駆蛋白の切断)、ミスフォールド、凝集、沈着の過程があり、それぞれのステップを抑える治療法が開発されてきました。限局性アミロイドーシスで腫瘤による機能障害があれば外科的切除が原則です。全身性アミロイドーシスにはAL型、AA型、FAP型、透析アミロイドーシスなどがあり、それぞれ治療方針が異なります。  ALアミロイドーシスは、異常形質細胞より産生される単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)の軽鎖(L鎖)に由来するアミロイド蛋白が沈着し、臓器障害をきたす疾患です。臨床症状は心・腎・肝・消化管・神経障害など沈着部位により多岐にわたっています。全身倦怠、浮腫、心不全症状など非特異的な臨床症状から本症を疑います。心臓障害は拘束性の拡張障害で右心系優位の心不全症状、低血圧、不整脈などで発症することが多いです。心エコー上、特徴的な心室中隔の肥厚、油滴状変化が見られます。駆出率(EF)よりも実際の心機能が悪い印象があります。血清BNP値が予後因子としても重要です。腎障害では蛋白尿やネフローゼ症候群の原因精査のため腎生検を行い、確定診断に至ることが多いです。  まず、血清、尿の免疫電気泳動(検出感度50%)、免疫固定法(同80%)およびfree light chain(FLC)(同98%)を測定しM蛋白を同定します。  次に骨髄穿刺を行い、形質細胞の細胞表面マーカーでCD38ゲーティングによりCD38+,CD19-,CD56+の発現パターンから単クローン性形質細胞群であることを確認します。胃粘膜や腹壁脂肪吸引(18Gの針を使用)検査や、障害臓器の生検を行い、コンゴーレッド染色やAL染色を行いアミロイドの沈着を確定します。  自家末梢血幹細胞移植(ASCT)併用大量化学療法の適応のない症例ではMD療法が推奨されています。多発骨髄腫に準じたMP療法やVAD療法はエビデンスレベルが低く推奨されません。

メルファラン/デキサメタゾン(MD)療法

メルファラン6mg/㎡経口 1日1回 4日間 デカドロン注 1回40mg点滴静注、Day1-4、28日ごと

 ASCTは適応とリスクに応じた前処置の減量を考慮し実施することが推奨され、血液学 的奏功率60%、臓器奏功率40%です。しかし、心アミロイドーシス合併症例や3個以上の臓器病変合併症例でASCT療法を行った場合、生着時の心機能悪化などで100日以内の治療関連死(TRM)が最大39%と非常に高いことも明らかになりました。一方、MD療法とASCTで予後に差がないという結果もあり、化学療法の第一選択はMD療法です。血液学的治療効果としての完全寛解(CR)は1)免疫固定法でM蛋白の消失、2)FLCのκ/λ偏りの正常化、3)骨髄形質細胞が5%未満の3項目を確認し診断する。臓器症状に対する治療効果は心臓アミロイドではBNP、EFの改善、腎臓アミロイドではアルブミンの改善で判断します。

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