特集1:傷跡を気にせず治療へ 頸部を切らない内視鏡下甲状腺手術
2026年5月掲載:Tea Time95号 (2026年・冬号)
2025年10月、乳腺・甲状腺外科では甲状腺の内視鏡手術に特化した診療を開始しました。
首周りに大きな傷をつくらないため、外見を気にせずに治療に集中できる手術の方法です。
甲状腺・副甲状腺の内視鏡手術の経験豊富な乳腺・甲状腺外科の長岡竜太医師に、
甲状腺の病気や内視鏡手術について伺いました。
甲状腺の病気の種類と検査方法
——最初に、甲状腺とはどのような臓器なのか、教えてください。
長岡:甲状腺は、首の前側、喉仏のすぐ下にある臓器です。蝶のような形をして、全身の代謝に関わるさまざまなホルモンを分泌します。ホルモンにはいくつかの種類があり、まとめて甲状腺ホルモンとよんでいます。
——甲状腺の病気にはどのようなものがありますか。
長岡:まず、甲状腺ホルモンのバランスが崩れ、代謝が異常になる病気があります。代謝が上がりすぎる病気の代表なものは自己免疫疾患であるバセドウ病で、症状としては動悸や息切れ、疲れやすい、イライラ、多汗などがあります。他にも、無痛性甲状腺炎や、ウイルス感染等が原因の亜急性甲状腺炎などがあります。一方、代謝が落ちる橋本病という病気もあり、体重増加やむくみ、倦怠感などが症状として挙げられます。いずれも女性に多く、幅広い年齢層で発症することが知られています。
他には、甲状腺腫瘍があります。首のしこりを気にして検査を受けたら甲状腺がんだったと判明することがありますが、命にかかわるものはごく一部です。一般的には首にしこりがあっても、良性腫瘍というケースがほとんどです。こちらも女性が多い傾向にあります。
——甲状腺の病気が疑われるとき、どのような検査を受けるのですか。
長岡:主に血液検査と超音波検査があります。血液検査では、甲状腺ホルモンの値を調べます。また、バセドウ病や橋本病では、甲状腺を攻撃してしまう自己抗体が増えるという特徴があるので、抗体の量も診断の判断材料になります。
超音波検査はエコー検査ともよばれるもので、甲状腺の大きさや腫瘍の有無を調べます。悪性腫瘍が疑われる場合には、超音波の画像を見ながら腫瘍に針を刺して細胞を採取し、悪性かどうかを調べる細胞診を行います。
手術の傷跡を服で隠せる内視鏡手術
——乳腺・甲状腺外科では甲状腺の内視鏡手術に特化しているとのことですが、通常の手術とはどのような違いがあるのですか。
長岡:甲状腺を摘出する手術では通常、頸部を切開するため、首の前側に傷跡が残ってしまいます。甲状腺の病気には女性が多いということもあって、抵抗感をもつ患者さんも少なくなく、生活の質(QOL)低下の要因になっていました。
当センターで実施している内視鏡補助下頸部手術(VANS(バンズ)法手術)は、1998年に日本で考案された方法です。片側の鎖骨下の約3センチ、鎖骨上の約5ミリの皮膚を切開し、そこから内視鏡を挿入し、甲状腺の一部を摘出します。頸部に傷が残らないことが最大のメリットで、首元が開いた服でも傷跡を隠すことができます。
——どのような病気にVANS法手術が適応できますか。
長岡:良性腫瘍は最大径が6センチ程度まで、悪性腫瘍では他の臓器への浸潤がなく、リンパ節への転移がない、または転移が軽度であれば適応になります。バセドウ病なら、甲状腺が推定60グラム以下で肥大していないこと、かつ内科的にコントロールが良好であることが条件です。副甲状腺腫瘍にも適応可能です。
ただし、VANS法手術独自の合併症として、術後に鎖骨下から頸部にかけて突っ張る、飲み込みにくい、硬いなどの違和感やしびれが生じやすい傾向にあります。これらのほとんどは数カ月程度で解消します。入院期間や治療確実性は通常の手術とほとんど変わりませんが、手術時間はVANS法手術のほうが1時間ほど長くなります。費用もわずかですが高くなります。傷跡をそこまで気にしない、または高齢者のように身体への負担が大きい患者さんにはVANS法手術が不向きな場合があります。詳しい適応条件や長所、短所について私たちとしっかり話し合って治療法を決めていくことになります。
——手術以外にはどのような治療法があるのでしょうか。
長岡:バセドウ病では過剰になっている代謝を抑えるための投薬治療が第一選択となり、その他、甲状腺の一部を壊す放射性ヨウ素内用療法などがあります。橋本病は、甲状腺ホルモン補充療法が中心となります。
原因不明の不調は甲状腺の病気を疑って
——甲状腺の病気について、普段から意識すべきことがあれば教えてください。
長岡:甲状腺の病気は、これといった予防法がありません。動悸、息切れ、疲れやすさ、体重増加、むくみ、イライラ、落ち着かないなど、原因不明の不調が複数ある場合には甲状腺の病気かもしれないので、早めに受診していただきたいと思います。心臓の病気かもしれないと思って循環器内科を受診し、そこから私たちに紹介されるというパターンもよくあります。地域のクリニックや当センター内での連携を通じて円滑な診療を心がけておりますので、不安やわからないことがあればぜひご相談していただければと思います。
乳腺・甲状腺外科 医師
長岡 竜太 (Ryuta Nagaoka)
患者さんへのメッセージ
これまでの甲状腺手術は傷跡が目立ち、手術を躊躇されることもありました。VANS法手術なら傷跡を気にせず、治療に専念できると思います。当センターは立地上若い女性の患者さんも多く、傷跡が目立たないVANS法手術が患者さんの希望の選択肢になればと願っています。