麻酔科の特色

麻酔科の特色

術前診察

麻酔科では、手術を受けるご本人とご家族の麻酔に対する不安が和らぐように、良いコンディションで手術に臨むことができるように、手術前の診察を行っています。手術治療が決まると、手術に必要な検査とともに身体のコンディションを確認するための検査を行います。麻酔科外来では、これまでのご病気、服用中の薬、手術や麻酔を受けた後の経過などについてお話を伺い、心電図、レントゲン、超音波、血液検査を元に、今回の手術に最も適切と考えられる麻酔方法をご提案します。糖尿病や心疾患など、手術前に更にコンディションを整える必要がある場合には、それぞれの専門医に治療を依頼します。

麻酔方法の詳しい内容についてはパンフレット([麻酔]、[小児麻酔]をご用意してあります。良い麻酔方法をご一緒に決めて行きましょう。

麻酔科イメージ

手術麻酔

手術当日には、麻酔科医師全員が早朝カンファレンスに集合し、全ての手術患者さんの問題点と麻酔方法を最終確認します。各手術室では、より安全な麻酔を行うため日本麻酔科学会専門医を含む複数の麻酔科医が担当します。手術後には併設する回復室または集中治療室(ICU)で状態が安定するまで治療を続けます。
ショック、大量の出血など、麻酔中や手術中の緊急時には、一斉放送により麻酔科医、外科医、看護師が参集し、迅速に対応する体制を整えています。

集中治療

ICUでは、多臓器不全、高侵襲手術後、心拍再開後など最重症の患者さんに対して、人工呼吸器、血液浄化装置、経皮的心肺補助装置などの生命維持装置や生理機能情報監視装置などの高度医療機器を使用した治療を行います。ICUに常駐する麻酔科医が、専門の知識と技術を駆使し、各診療科専門医、看護師、臨床工学技士、管理栄養士、薬剤師とともに24時間365日途切れることなく治療にあたります。

ペインクリニック

手術にともなう痛みを和らげる麻酔科医の専門知識と技術は、難治性疼痛治療に生かされています。帯状疱疹や外傷に起因する神経障害性疼痛、低髄圧症候群に対しては、院内他診療科、連携医の方々からのご紹介を受け、麻酔科外来で治療を行っています。

心肺蘇生支援

手術室、ICUで麻酔科医が日常診療の中で身につけた技術と知識は、病棟における患者急変時対応に生かされています。緊急コールに対しては24時間365日、救命救急センター医師、看護師、当直医師とともに、JRCガイドラインに則った救命処置を行い、ICUに搬送して集中治療を継続します。

手術室管理・運営

麻酔科医が担うもう一つの役割は、手術医療の質と安全性の保証です。
2010年1月に移転した新病院では、「明るく開放的な空間 分かりやすい動線」を手術室設計に反映しました。病院4階中央手術部にはスタッフステーションを中心に、広く明るい中央ホールを囲んだ12の手術室、サテライトファーマシー、リカバリールーム、家族説明室を配置し、麻酔科外来、血管撮影室、16床のICU、5階周産期センター産科手術室2室、15床のNICUを効果的な導線で繋げています。

4階平面図

4F平面図

手術室イメージ01

手術室イメージ02

手術室には、精密医療器械を万全な状態に保守点検し、安全に操作するために臨床工学技士が、膨大な種類の医薬品を管理し、安全に使用するために薬剤師が複数名常駐しています。
日本赤十字社医療センター中央手術部では手術の安全性を保証するため、世界保健機構(WHO)が推奨する手術安全チェックリスト(Surgical Safety Checklist)をいち早く導入しました。患者さんが手術室に入室する前、手術開始直前、手術終了時にチェックリストの各項目を読み上げ、手術に参加するスタッフ全員で確認するチーム医療の実践です。
お名前、医師から説明を受けた手術内容、手術する部位、右か左か、薬や食べ物のアレルギーなどについて、ご一緒に確認して参ります。ご協力をお願いします。
【最新】手術室安全チェックリスト(全身麻酔用).pdf
【最新】手術室安全チェックリスト(局所・硬膜外・脊椎麻酔用).pdf

手術室安全チェックリスト

教育

日本赤十字社医療センター麻酔科では初期研修医(卒後1~2年)、後期研修医・専修医(卒後3~6年)を積極的に受け入れています。麻酔科専門医の育成には、独自の専門医研修プログラムを策定し、特に力を注いでいます。東京大学医学部5学年、6学年の実習見学施設として毎年多くの医学生を受け入れ、学生教育にも取り組んでいます。

【日本赤十字社医療センター麻酔科】専門研修プログラムの概要と特徴

専門研修基幹施設である日本赤十字社医療センターは、「人道・博愛」の赤十字精神を行動の原点として、高度な先進医療施設を目指し、地域がん診療連携拠点病院、母体救命対応総合周産期母子医療センター、救命救急センター、地域災害拠点病院を診療機能の中核とする病床数701の総合病院である。医療のライフラインである麻酔科は高い倫理観と使命感のもとに、麻酔科専門医8名(麻酔科指導医5名)、認定医3名を含む専攻医により、手術室15室(中央手術室12室、周産期手術室2室、血管撮影室1室)における年間4,614件の手術麻酔管理、集中治療科専門医が常駐する集中治療室(ICU)16床における年間3,778名の延べ入室患者管理、麻酔科外来(歯科口腔外科外来併設)診療、心肺蘇生支援に従事し、スタッフ一丸となって24時間365日対応している。

各専攻医あたり必要な特殊麻酔症例はもとより、複雑心奇形等新生児症例、生体肝移植手術症例を含む手術室麻酔、集中治療やペインクリニックなどの関連領域診療を、専門研修基幹施設において充実した指導体制のもとで経験する。専門研修基幹施設における2〜3年間の研修の後、専攻医各自が希望する専門研修連携施設において更に研鑽を積むことができる。

埼玉県立小児医療センターでは、ボストン小児病院で小児麻酔フェローシップを修了したスタッフによる小児麻酔認定医取得に必要な臨床経験および学術研究経験を積むことができる。

埼玉医科大学総合医療センターでは、ハーバード大学やトロント大学で産科麻酔フェローシップを修了したスタッフによる産科麻酔の臨床経験および学術研究経験を深めることができる。

イムス葛飾ハートセンターでは、心臓血管麻酔専門医や海外留学経験を有するスタッフによる成人心臓手術麻酔管理、術中経食道心エコー、MEPの技術を十分に習得することができる。

昭和大学病院では、日本臨床麻酔学会神経ブロック教育インストラクターによる超音波ガイド下末梢神経ブロックの技術を研鑽することができる。

大学病院における幅広い経験を希望する専攻医には、東京大学附属病院、岡山大学病院、東京女子医科大学病院において市中病院では経験できない特殊麻酔症例および学術研究経験を研鑽することができる。

日本赤十字社病院間の連携体制を生かし、大森赤十字病院、横浜市立みなと赤十字病院においては地域特性に富んだ手術麻酔、集中治療など幅広い臨床経験を積むことができる。

日本赤十字社医療センターでは、麻酔科医控え室および医学図書室に整備されている端末から電子ジャーナル、ブック検索、種々のデータベースが利用可能であり、各自の携帯端末からUpToDateの利用が可能である。

日本赤十字社医療センターでは、外部招聘講師による多彩な分野の講演会、多様な教育セミナーが頻回に開催されている。院内において医療安全講習、感染制御講習が開催され、当該分野に関する知識習得が可能である。本専門研修プログラム指導医もインストラクターを務めてきた日本ACLS協会東京本郷トレーニングサイト(東京トレーニングラボ)等が開催するBLS/ACLSを必ず研修期間中に受講し、心肺蘇生技能を習得する。東京麻酔専門医会または連携施設が主催、共催、後援するハンズオンワークショップ、リフレッシャーコース等の受講、ケースカンファレンスへの参加を通じて、臨床現場では学び難い技能・知識を習得する。

本専門研修プログラムは、専攻医が整備指針に定められた麻酔科研修の到達目標を達成できる専攻医教育を提供し、地域の麻酔診療を維持すべく十分な知識・技術・態度を備えた麻酔科専門医を育成する。麻酔科専門研修プログラム全般に共通する研修内容の特徴などは別途資料麻酔科専攻医研修マニュアルに記されている。

本研修プログラムでは、専門研修基幹施設において麻酔科専門医の基盤となる知識・技術・コミュニケーション能力を習得した後、専攻医が希望する連携施設において段階的に専門的な研修を可能とする教育体制を整備している。

専門研修プログラムの運営方針
  • 研修の1年目は,専門研修基幹施設で麻酔診療の基礎となる研修を行う。麻酔科症例検討会、関連する診療科を交えた症例検討会におけるディスカッションを踏まえて、日本臨床麻酔学会、日本蘇生学会などで学会発表を経験する。
  • 研修の2年目は、専門基幹研修施設で小児の麻酔、帝王切開術の麻酔、心臓血管外科手術の麻酔など、専門性の高い麻酔診療の研修を行う。日本麻酔科学会地方会、日本麻酔科学会総会、日本集中治療医学会などで学会発表を経験する。
  • 研修の3年目は、専門基幹施設で新生児の麻酔、小児心臓血管手術の麻酔、移植手術の麻酔など特殊麻酔症例を経験し、あわせて集中治療やペインクリニックを含む様々な症例を経験する。専門基幹施設では経験できない症例や手技については、専攻医の希望に応じて専門連携施設である埼玉県立小児医療センター、イムス葛飾ハートセンター、埼玉医科大学総合医療センター産科麻酔科等においてローテーション研修を行うことが可能である。
  • 研修の4年目は、専攻医の希望に応じて専門連携施設である東京大学医学部附属病院、岡山大学病院、昭和大学病院、東京女子医科大学病院、埼玉医科大学総合医療センター、埼玉県立小児医療センター、イムス葛飾ハートセンター、において研修を行い,様々な症例を経験するとともに研究マインドを涵養させ、論文執筆を経験する。
  • 地域医療の維持のため、麻酔診療の供給が少ない地域にあり、高い質の指導体制が確保された専門連携施設である大森赤十字病院、横浜市立みなと赤十字病院において4年目の3〜6ヶ月間麻酔研修を行い、当該地域における麻酔診療のニーズを理解し、幅広い研鑽を積むことができる。
  • 研修内容・進行状況に配慮して、プログラムに所属する全ての専攻医が経験目標に必要な特殊麻酔症例数を達成できるように、ローテーションを構築する。
  • 時間外労働・休日労働については、職員代表者が病院長と締結した36協定に則って従事する。当直明け8:30から当直翌日8:00までの時間は病院業務に従事しない。1年に2回の健康診断を必ず受診する。ウィルス抗体価検査結果によりB型肝炎ワクチン、MRワクチンの接種、毎年10月からはインフルエンザワクチン接種を受ける。
研修実施計画例
年間ローテーション例(専攻医の希望により専門連携施設を選択)
1年目 2年目 3年目 4年目
A 日本赤十字社医療センター 日本赤十字社医療センター  日本赤十字社医療センター
埼玉県立小児医療センター
イムス葛飾ハートセンター
埼玉医科大学総合医療センター
大森赤十字病院
横浜市立みなと赤十字病院
東京大学医学部附属病院
岡山大学病院
昭和大学病院
東京女子医科大学病院
日本赤十字社医療センター
B 日本赤十字社医療センター 日本赤十字社医療センター 日本赤十字社医療センター
東京大学医学部附属病院
岡山大学病院
昭和大学病院
東京女子医科大学病院
埼玉県立小児医療センター
イムス葛飾ハートセンター
埼玉医科大学総合医療センター
大森赤十字病院
横浜市立みなと赤十字病院
日本赤十字社医療センター
研修施設の指導体制と前年度麻酔科管理症例数

本研修プログラム全体における前年度合計麻酔科管理症例数:4,735症例
本研修プログラム全体における総指導医数:5.94人

合計症例数
小児(6歳未満)の麻酔 399
帝王切開術の麻酔 223
心臓血管手術の麻酔
(胸部大動脈手術を含む)
171
胸部外科手術の麻酔 142
脳神経外科手術の麻酔 158

麻酔科指導医・専門医、集中治療科専門医、ペインクリニック専門医による充実した指導体制のもと、手術麻酔、経食道心エコー、エコーガイド下神経ブロック、ICU管理、疼痛コントロールなど臨床研修、日本麻酔科学会総会・地方会、日本集中治療学会総会における学会発表、論文作成など充実した研修体制の下で研鑽を積むことが出来ます。

教育イメージ

業務スケジュール

7:30
抄読会
  7:45
説明会
       
8:00
全体Conf.
8:00
全体Conf.
8:00
全体Conf.
8:00
全体Conf.
8:00
全体Conf.
   
8:30
手術麻酔/ICU/外来
8:30
手術麻酔/ICU/外来
8:30
手術麻酔/ICU/外来
8:30
手術麻酔/ICU/外来
8:30
手術麻酔/ICU/外来
8:30~8:30
ICU/緊急手術麻酔
(当直1名、宅直1名)
8:30~8:30
ICU/緊急手術麻酔
(当直1名、宅直1名)
        17:00
症例検討会
   
夜間~8:30
(当直2名)
夜間~8:30
(当直2名)
夜間~8:30
(当直2名)
夜間~8:30
(当直2名)
夜間~8:30
(当直2名)
   

麻酔科医師室、カンファレンスルーム、スタッフラウンジを職員更衣室からスタッフステーションに繋がる導線に沿って配置し、患者さんはもちろん職員のアメニティーにも最大限配慮しています。

スタッフイメージ

主な検査

麻酔科医が手術麻酔、集中治療を行う上で重要な検査について説明します。

超音波ガイド下カテーテル留置

心血管系に作用する薬品を大静脈内に投与するための中心静脈カテーテルや緊急血液透析用カテーテルは、体表から見えない静脈に注射針を進めて体内に留置する必要があります。安全に、確実に静脈血管内にカテーテルを進めるには、専用の超音波装置が不可欠です。

超音波ガイド下神経ブロック

局所麻酔薬を神経の周囲に注入し、神経作用を数時間遮断して痛みをとる治療法が神経ブロックです。神経ブロックは手術後の鎮痛にも有用です。四肢や体幹の痛覚をつかさどる神経は体表から深い部位を走行しています。超音波装置を用いることにより、注射針を神経や血管に直接当てることなく安全にガイドし、局所麻酔薬を神経周囲に注入することができます。

経食道心エコー

経食道心エコーは、内視鏡のような方法で先端を進めて食道や胃の中側から超音波ビームを心臓や大血管に向けて発振し、反射した信号を捉えて心臓の機能や形態を評価する診断装置です。全身麻酔中に行いますので、苦痛を感じずに検査を受けるができます。

気管支内視鏡

呼吸器外科手術では人工呼吸用チューブが気管支内の正しい位置に留置されているかを確認するための診断装置として、集中治療の場では気管支内を観察し、喀痰を取り除くための治療機器として使用します。

生体情報モニター

心電図/血圧/体温/経皮的酸素飽和度モニター

生体情報の基本であり、手術麻酔、集中治療では必ずモニタリングします。

低侵襲血行動態モニター

動脈血圧の波形から算出した心拍出量、一回拍出量変化をモニタリングし、輸液の効果を判定します。人工呼吸中の体液バランスに関する情報を得て、最適な輸液治療を行うために用います。中心静脈カテーテルに装着したセンサーにより静脈血酸素飽和度をモニタリングすることにより、臓器不全を防止するための情報を得ることができます。

BISモニター

麻酔の深さを適切な範囲に維持するため、麻酔薬、鎮静薬の催眠効果をモニタリングする検査機器です。手術室で全身麻酔の効果判定に使用するほか、ICUで鎮静の評価に使用することもあります。

麻酔ガスモニター

吸入麻酔ガス濃度、酸素濃度、炭酸ガス濃度をモニタリングして、適切な麻酔と呼吸状態を監視します。

呼吸モニター

換気量や気道内圧をモニタリングして、人工呼吸器が適切に作動しているか常時監視するための検査機器です。