呼吸器外科の特色

扱う疾患

原発性肺がん~「肺に影がある」「肺がんの疑いがある」と言われた方~

肺がんの治療は個々の患者さんによって適切な治療が大きく異なり、また医学の進歩に伴い、標準とされる治療も年々変化しています。
肺がん治療全体の中で、手術以外の治療が担う役割が以前より大きくなってきているのは事実ですが、現在でも
手術による切除が可能な肺がん(ステージⅠ・Ⅱの非小細胞肺癌)に対する標準治療は、外科切除である
という事実は変わりません。
特に、最近多く発見されるようになった小型の肺がんの多くは、手術をして病変を切除し、顕微鏡で検査をしてみないと確定診断が付きません。
肺がんに対し今後様々な新しい治療法が開発されても、実際の病変を手に取って詳しく調べられるという点は、手術治療の大きな利点として残ると言えます。

当科では、ほぼ全例で胸腔鏡を用い、傷の小さい手術を心がけています。筋肉を切断しないため、術後の回復は早いです。
しかしより重要なのは、手術を安全(=手術中・手術後の身体的トラブルが少ない)かつ確実(=治るがんは確実に治し切る)に行うことだと考えています。
多くの場合、手術を受けた患者さんの入院期間は1週間程度であり、手術後も通常の生活に戻ることが可能です。
また、進行した肺がんでは、手術の他に放射線治療や抗がん剤を併用したり、気管支形成術(気管支を切り、縫ってつなぐ)と呼ばれる高度な手技を行ったり、人工心肺装置を使用して心臓外科医と協同で切除に当たったりしています。

転移性肺腫瘍

他の部位にできたがんが、肺に転移(移転)を起こしている状態です。

がんの治療後の定期通院中に、肺に新たな影が無症状で見つかることがあります。この場合、今後の治療を考えるうえで、肺の影が本当に転移かどうか、手術で切除して確定診断をつけた方がよい場合があります。確定診断には手術が最良かつほぼ唯一の方法です。
また、元のがんの種類、転移箇所の数によっては、手術で肺転移巣を切除することで根治(完全に治す)が望めるケースもあります。

当センターでは、大腸がん・乳がん・肝がん・子宮がん・腎がん・頭頚部がんなど、肺に転移を起こすことのあるがんの治療を数多く手がけており、各科の主治医とよく相談しながら治療方針を決めています。
また、他院でがんの手術を受け、肺に転移が見つかった患者さんの紹介も積極的に受け入れ、必要に応じて手術を行っています。
当科では他院と比較し、転移性肺腫瘍の手術を多く行っており、大半は胸腔鏡を用いた傷の小さい手術です。
手術を受けた患者さんの入院期間は数日~1週間以内です。

自然気胸

肺に穴が開き、パンクしてしぼんでしまう状態です。胸の痛みや息苦しさを伴うことが多いです。
若い男性に多くみられますが、高齢や喫煙により「肺気腫」と呼ばれる、肺が脆弱な状態になった方が気胸を起こすことも増えています。近年では若い女性にもみられるようになってきています。
肺の表面に「ブラ」「ブレブ」と呼ばれる壁の薄い袋のような構造ができ、これの破裂により気胸を起こすことが大半です。
ただし、遺伝性の気胸や、若い女性で生理に関連して気胸が起こる「月経随伴性気胸」など、まれではありますが特殊な病気もあり注意が必要です。
当センターの病理部には、気胸を含めた「嚢胞性肺疾患」と呼ばれる病気の一群を得意とする医師が在籍しており、定期的に意見交換をし、専門的な知見に基づくアドバイスを受けています。
肺が大きくつぶれている場合は胸にチューブを入れ、肺の外に漏れ出た空気を抜く治療を行います。繰り返す場合や、肺からの空気漏れが止まらず入れたチューブを抜くことができない場合は、ブラを切除したり、穴をふさいだりする手術を行います。
胸腔鏡を用いた小さな傷で痛みの少ない手術を心がけています。手術を受けた患者さんの入院期間は数日~1週間以内です。

縦隔腫瘍・胸壁腫瘍

比較的まれですが、縦隔(左右の肺にはさまれた部分)や胸壁(筋肉や骨、胸膜)に腫瘍ができることがあります。中でも胸腺腫と呼ばれるものが最多です。
多くの場合無症状で、検診レントゲンのほか、他の病気の経過観察中にCT検査などで見つかることが多いです。
診断と治療を兼ね、胸腔鏡を用いて小さな傷で行う手術を行います。胸腺腫に対する手術も、症例によって胸腔鏡手術を取り入れています。
手術を受けた患者さんの入院期間は数日~1週間以内です。

膿胸

炎症性・感染症肺疾患(肺結核、非結核性抗酸菌症、アスペルギルス症など)

胸部外傷

主な検査

CT検査

ドーナツ状の機械に入り、体の断面の写真を撮るX線の検査です。
肺の最初の精密検査として、また手術の前に血管や気管支の細かい構造を把握する(得られた画像から3Dの立体画像を構築します)ために行います。
造影剤と呼ばれる注射をしながら撮影することがあります。

FDG-PET CT検査

点滴で薬剤を注射し、数時間の安静の後に専用の装置で全身の撮影を行います。
「CTで病変があると言われたが、どのくらい肺がんが疑わしいか」「がんならば周囲のリンパ節や他の臓器に転移を起こしているどうか」をある程度知ることができます。
また、がんの治療後に、再発や転移の有無を調べる目的でも行うことがあります。
原則として外来通院で行う検査です。

頭部MRI検査

肺がんが強く疑われる場合、脳に転移がないかどうかを手術の前に調べます。
手術後の定期検診の際、脳への転移を調べます。

気管支鏡検査

局所麻酔などをして、口からのどの奥へ内視鏡を挿入する検査です。
CT検査で写った肺の病変を、小さくつまんだり(生検)、病変をこすって細胞を取ったり(擦過)して、顕微鏡で観察し、悪性の病変かどうか診断を試みます。
呼吸器内科の医師と連携し、入院(2泊3日)もしくは日帰りで行います。

呼吸機能検査

息を吸ったり吐いたりして、肺活量や息を吐き出す勢い、酸素を取り込む能力などを調べます。
手術を検討する前に、肺の機能が手術に耐えられるかどうかを調べる検査です。通院で行います。

未確診の肺病変、間質性肺炎等のびまん性肺疾患のVATS肺生検

全身麻酔で行う、いわゆる手術に相当する検査です。入院で行います。
胸に小さな穴をいくつか開け、病変のある肺の一部を直接切り取り、顕微鏡で観察します。
画像検査で肺がんが疑われる病変があるものの、他の検査では確定診断がついていない場合に行います。手術中に20分ほどで迅速診断を行い、がんと診断されればそのまま引き続きがんを治す手術を行います。
また、がん以外の肺の病気でも、他の検査では得られない追加の情報を得るために行うことがあります(呼吸器内科の医師と連携して行います)。