大腸肛門外科の特色

大腸がん診療

大腸がんは年々増加しており、がんの種類別の罹患数(その病気にかかった人数)は、大腸がんは男性が3位(1位が前立腺がん、2位が胃がん)、女性が2位(1位が乳がん)、男女合わせると1位でした(2017年)。大腸がんの死亡数(その病気で亡くなった人数)は、大腸がんは男性が3位(1位が肺がん、2位が胃がん)、女性が1位で、男女合わせると2位(1位は肺がん)でした(2018年)。
がんの治療における3本柱は、手術、化学療法、放射線治療ですが、やはりその中心は手術です。がんの根治を期待するには、何と言っても根治的手術が必要となります。
そこで、大腸がんの治療を考える場合、重要なのは、①手術を含めた大腸がん治療の水準が高いか?です。
それだけではなく、②糖尿病や心臓・呼吸器疾患などの併存疾患への対応は万全か?も重要です。
大腸がんはご高齢の方に多いため、いろいろな併存疾患を有していることが多く、手術をより安全に施行するには、併存疾患に対する術前、術後の対応が非常に重要です。
これらに加えて、③化学療法、放射線療法、緩和ケアなどはしっかりしているか?も重要です。
大腸がんは初診時において転移が存在するなど必ずしも根治手術ができない場合や、あるいは手術を行っても、残念ながら術後の経過において転移や再発が起こる場合もありますので、経過により起こり得るいろいろな状況を想定していなくてはなりません。

大腸がんに対する専門性の高い治療の提供

腹腔鏡下での大腸がんに対する根治手術

当科では現在、大腸がんの根治手術は基本的に腹腔鏡下手術で行っております。腹腔鏡下手術は従来の開腹手術に比べて、創が小さいため低侵襲であり、術後の疼痛が少なく、合併症も少なくなっています。
当科では、結腸がんはもとより、直腸がん、特に下部直腸がんにおける肛門温存手術、機能温存手術に対しても腹腔鏡下手術を行っております。
年々、腹腔鏡下手術の割合は増加し、大腸がん全体では80%を越える症例で腹腔鏡手術を行っております(表1、図1)。


(表1)主要手術件数の年次推移(各年1~12月)

(図1)大腸がんに対する腹腔鏡下手術の割合

下部直腸がんに対する機能温存手術、肛門温存手術

直腸がんに対しては、根治性を低下させることなく、解剖学的知識に基づき機能温存手術を腹腔鏡下に施行しております。特に当センターでは 2005 年以降、肛門(歯状線)から腫瘍までの距離が2㎝以下である超低位の直腸がんに対し、人工肛門を避ける肛門温存手術 ISR (内括約筋切除を伴う直腸切除術) を120 件以上行っております。この手術は経腹操作によって内外括約筋間での直腸剥離を行い、肛門管内で内肛門括約筋とともに直腸を一括切除し、経肛門的に肛門管・肛門吻合を行う手術です(図2)。近年は術後の局所再発を避けるため、進行がんには術前放射線化学療法を導入しております。もちろんがんの種類や位置、進行度によっては肛門を温存できない場合もありますが、可能な限り患者さんのニーズに応えられるよう難易度の高い手術を提供いたしております。

図2

直腸がん(婦人科がん)の局所再発および進行直腸がんに対する集学的治療を加味した骨盤内全摘術など

直腸がんや婦人科がんの術後に局所再発を来してしまった患者さんもしくは他臓器(膀胱や子宮)にまで浸潤するような進行直腸がんにかかってしまった患者さんに対し、最も長期生存を期待できる治療方法は手術となります。その場合、難度の高い最後の砦となる骨盤内臓器全摘術という他臓器(子宮や膀胱、場合によっては仙骨など)まで合併切除する手術が必要となり、当センターでは他科と協力してこの手術にも積極的に取り組んでおります。

大腸がんに対する集学的治療、キャンサーボードの開催

大腸がん(特に進行直腸がん)の治療に際しては、手術単独で対応するより、抗がん剤や放射線治療を組み合わせた方が治療成績の向上につながることがあるため(図3)、 専門的知識に基づいてこのような治療をご提案させていただくこともあります。集学的治療にあたっては、化学療法の専門医師、放射線療法の専門医師等、関連する専門家と協力し治療に当たっております。必要に応じてキャンサーボードと呼ぶ多くの診療科・職種が参加する検討会を開催して、候補として考えられる治療方法の中から、患者さんにとってベストな治療法を検討しご提案しております。

図3

他の診療科との連携による併存疾患への対応

コントロールが不良あるいは未治療の糖尿病は、感染に対する抵抗が弱い、創傷治癒が不良などのリスクがあるため、術後肺炎や縫合不全、創感染などの合併症の発生が高くなります。また高血圧、心不全、慢性呼吸器疾患、慢性腎不全などの併存疾患をお持ちの方も、術後の合併症のリスクが高く、状況によっては生命に関わるような重篤な合併症を引き起こす可能性があります。 当センターは、ほぼあらゆる併存疾患に対して専門とする診療科を有しているため、術前に当該診療科にコンサルトを行い、また周術期には併診によって治療にあたってもらっています。

シームレスな医療(化学療法、放射線療法、緩和ケア)

大腸がんに対する化学療法

大腸がんの治療に際しては、手術前、手術後、再発時等、化学療法(抗がん剤)が必要となるケースが多くなっております。大腸がんに対し使用できる抗がん剤は多岐にわたるため、安全に、副作用を極力減らしながら、効果的に使用するには、専門的知識と経験が必要です。当科では、手術のみならず化学療法も積極的に行っており、患者さんの状態や希望に応じて最善と考えられるものを選択し提供しております。最近では抗がん剤治療を開始して10年以上経過し治療を継続している患者さんもいらっしゃいます。

大腸がんに対する放射線療法

集学的治療で述べたように、術前に抗がん剤や放射線治療を組み合わせた治療を行った後に手術を行う場合もありますが、術後再発を来たした場合に、その治療のためや除痛目的に放射線治療を行うことがあります。当センターは最新の設備を備えており、専門医と相談して治療を選択することが可能です。

緩和ケア

がんに随伴して生じる痛みや苦痛などに対しては、緩和ケア科と密接に連携を取って診療にあたっています。

鼠径ヘルニア手術

鼠径ヘルニアは非常に多くの方がかかる疾患です。当科でも年に100例近い手術を行っています。
鼠径ヘルニアの手術は、近年では人工物(メッシュ)で腹壁の弱くなった部分を補強する方法が標準治療となっておりますが、アプローチの違いによって、鼠径などの体表から手術を行う前方アプローチ(クーゲルパッチ、メッシュプラグ法など)と腹腔鏡下に行う2つの方法があります。 腹腔鏡下手術は低侵襲で術後の疼痛が少ないと言われていますが全身麻酔が必ず必要になり、両者には各々メリット、デメリットがあるため、患者さんの希望も考慮しつつ個々の症例で相談して術式を決定しています。施設によっては、どちらか一方の手術しか行っていないことがありますが、当科では両方の手術を行っています。

大腸内視鏡検査

便潜血陽性等で大腸がんが疑われた場合の診断で最も重要な検査は大腸内視鏡検査です。早期の大腸がんや大腸ポリープに対しては積極的に内視鏡治療(内視鏡的ポリープ摘除、内視鏡的粘膜切除)を行っています。早期ではない大腸がんに対しても治療方針を決定する上で欠かせない検査です。

吐血・下血

当科の医師が執筆した、日本臨床外科学会の記事「吐血・下血」をご覧ください。(他団体のホームページにリンクしています。)